プロジェクト型ビジネスにおける業績管理③

プロジェクト型ビジネスを行う企業の多くは、「契約形態の特殊性(請負型)」、「案件毎に仕様が異なり個別の採算管理が必要」といった特徴に起因して、損益計画を立てても実績との乖離が大きく、どう対策を打てば良いかわからない、あるいは、タイムリーに業績を把握できないために施策が後手になってしまう等、業績管理を行う上で様々な課題を抱えています。

プロジェクト毎のコストを把握できる仕組みがなく、社内で過去の実績値のデータを持っていなければ、新たな受注を行う際の見積書の積算は経営者の「勘」に頼らざるを得ず、採算割れ(赤字)となっていたことが後から判明する事態も生じかねません。

そこで今回は、予算(業績予想、損益計画)の精度を上げるにはどうすれば良いか、というテーマでこれまでの経験に基づく持論を述べたいと思います。

予算の精度を上げるためにはいくつかのステップを踏む必要があります。業種や会社規模によって優先すべき課題は異なることもありますが、概ね以下のようなステップで体制を構築すれば、確実に予算精度は向上します。

STEP.1 過去の事業別損益(実績)を把握する

 STEP.2 過去のプロジェクト別損益(実績)を把握する

 STEP.3 将来の事業別損益(予算)を計画し、予実分析を行う

 STEP.4 見込案件の管理・共有を行い、タイムリーなプロジェクト別予実管理を行う

まず、複数の事業を行っている場合には、少なくとも事業セグメント別の業績を把握できる仕組みを準備する必要があります。そして、STEP.1~2で挙げた過去の実績を、経済事象に合わせて適切に把握する仕組みを持たなければ、予実管理を正しく実施することはできず、予算精度の向上は期待できません。

STEP.2で挙げたプロジェクト別損益の把握については、ビジネスの形態によってプロジェクト単位の捉え方は様々です。サービス別、製品群別、商流別、プロジェクトタイプ別など、業績管理の目的に適合するようプロジェクトの集計単位を決定し、それに沿った最小のプロジェクト単位、プロジェクトコードの採番ルールを決定することで、プロジェクト別の採算管理が有効に機能するようになります。

次に、過去の事業別損益、プロジェクト別損益の実績とその推移を参考に、STEP.3の損益計画を立案します。これにより根拠に裏づけされた「積上げ式」の予算作成が可能となり、各事業別の予実管理が機能するようになります。

これらのステップを経て、PDCAを繰り返すことにより予算の精度を向上させることができます。

予算や事業計画の立て方について、書籍等を参考にすれば直ぐに体裁を整えることは可能ですが、本当に経営管理に役立てるためには、過去の実績と現状の業績に関する正しい理解が不可欠であると思います。ですから、STEP1~2を各企業の実態に合わせて適切に把握できるようになることがSTEP.3に挙げた予算の精度を向上させるために避けては通れない道だと私は思います。

さらに、STEP. 4に挙げたとおり、見込案件(提案中の案件など)の受注確度予測等を共有し、着地見込みのシミュレーションができる仕組みを構築することで、各プロジェクトメンバーの採算管理に関する意識が高まり、予算を達成するための施策を早期に考え実行に移すことができる組織へと変革することができるようになります。

以前、私が勤めていたITベンチャー企業では、株式公開の準備を進めていたこともあり、プロジェクト別の(個別)原価計算を行っていましたので、STEP1~2は概ね実践できていました。

年度毎に事業部別予算も作成していましたが、予算と実績との乖離が大きく、予実管理が意味を成さないことが課題でした。

すなわち、毎月の経営会議で予算と実績の差異及びその原因を報告していましたが、その時点での報告では既に手遅れとなっており、手の打ちようがなかったのです。

そのため、プロジェクトの情報をリアルタイムに共有し、プロジェクトリーダーが営業ステータスからエンジニアのプロジェクト別工数、見込原価までをいつでも見られる体制を構築するのに奔走しました。

これらの経験から、STEP.4を通じてタイムリーに売上・損益着地見込(フォーキャスト)を捉え、経営に活かすことの必要性を実感しました。

皆さんの会社では如何でしょうか?