失敗しない訂正報告書の作成実務②

株式会社東芝の2014年度の決算日は、2015年3月31日。ですが、第三者委員会による不適切な会計処理等の指摘を受け、決算数値の確定をすることができず、2度に渡り関東財務局長から提出期限延長の承認を受け、2015年9月7日にようやく有価証券報告書が提出されました。これは、法律で決まっている本来の提出期限を大幅に超えてしまっています。

今回は、この有価証券報告書の提出期限と、延長申請のルールについて解説します。

有価証券報告書の提出期限は、金融商品取引法第24条第1項に記載があります。

”第二十四条  有価証券の発行者である会社は、・・中略・・内閣府令で定めるところにより、事業年度ごとに、当該会社の商号、当該会社の属する企業集団及び当該会社の経理の状況その他事業の内容に関する重要な事項その他の公益又は投資者保護のため必要かつ適当なものとして内閣府令で定める事項を記載した報告書(以下「有価証券報告書」という。)を、内国会社にあつては当該事業年度経過後三月以内(やむを得ない理由により当該期間内に提出できないと認められる場合には、内閣府令で定めるところにより、あらかじめ内閣総理大臣の承認を受けた期間内)・・中略・・に、内閣総理大臣に提出しなければならない。・・後略・・”

このように、有価証券報告書は、決算日後、3か月以内に提出しなければならないのが本来の提出期限です。しかし、「やむを得ない理由により当該期間内に提出できないと認められる場合」には、期間の延長を申請して承認を受けることになっています。

「やむを得ない理由」は、企業内容等開示ガイドライン24-13(1)で例示されています。

① 電力の供給が断たれた場合その他の理由により、当該発行者の使用に係る電子計算機を稼動させることができないことによる債務未確定等を理由として、提出期限までに財務諸表又は連結財務諸表の作成が完了せず、又は監査報告書を受領できない場合

② 民事再生法に基づく再生手続開始の申立てによる債務未確定等を理由として、提出期限までに財務諸表又は連結財務諸表の作成が完了せず、又は監査報告書を受領できない場合

③ 過去に提出した有価証券報告書等のうちに重要な事項について虚偽の記載が発見され、当事業年度若しくは当連結会計年度の期首残高等を確定するために必要な過年度の財務諸表若しくは連結財務諸表の訂正が提出期限までに完了せず、又は監査報告書を受領できない場合であって、発行者がその旨を公表している場合

④ 監査法人等による監査により当該発行者の財務諸表又は連結財務諸表に重要な虚偽の表示が生じる可能性のある誤謬又は不正による重要な虚偽の表示の疑義が識別されるなど、当該監査法人等による追加的な監査手続が必要なため、提出期限までに監査報告書を受領できない場合であって、発行者がその旨を公表している場合

⑤ 法第24条第1項各号に掲げる有価証券の発行者が外国の者である場合であって、当該者の本国の計算等に関する法令又は慣行行等により提出期限までに有価証券報告書を提出することができない場合

つまり、提出期限の延長が認められるのは、過去に提出した有価証券報告書等のうちに重要な事項について虚偽の記載が発見され、財務諸表若しくは連結財務諸表の修正が提出期限までに完了できない場合、又は監査法人等による追加的な監査手続きが必要なため、提出期限までに監査報告書を受領できない場合等に限られています。これ以外のケースでは、延長の申請があっても承認されず、期限を守れない場合には、罰金や上場廃止(1ヶ月を超えて遅れる場合等)などのペナルティが科される場合があります。

期間の延長がどのくらい認められるかについては、明確な基準は設けられていませんが、東芝のように2ヶ月以上に渡って延長が認められるケースは稀で、通常、1ヶ月程度、延長が認められているケースが多いです。

また、有価証券報告書の提出期限延長の承認の手続きは、開示府令第15条の2第1項に記載されており、具体的には以下の記載が必要となります。

(1)  当該有価証券報告書の提出に関して当該承認を受けようとする期間

(2)  当該有価証券報告書に係る事業年度終了の日

(3)  当該有価証券報告書の提出に関して当該承認を必要とする理由

(4)  延長申請による承認を受けた場合及び(3)に規定する理由について消滅又は変更があつた場合に直ちにその旨を多数の者が知り得る状態に置くための方法

さらに、申請書類には以下の書類を添付しなければならないものとされています(開示府令第15条の2第2項)。

①定款又はこれに準ずるもの

②前記(3)に規定する理由を証する書面

これらの書類提出の準備、財務局や東京証券取引所への確認・状況報告、TDnet上での適時開示、監査法人との調整等々、提出書類の期限延長の手続きを行うに当たっては、やらなければならないことが沢山あります。万が一の事態に備え、今回ご紹介した開示ルール等をチェックしておくことをお勧めします。