前回のコラムでは、業務改革(BPR)の定義やなぜ今、業務改革が注目されているのかについて解説しました。
本コラムから、多くの上場会社に共通する決算・開示業務における課題を整理し、業務改革と業務改善という切り口で、決算・開示業務におけるこれらの課題をどのように解決していくのかについて紹介します。
多くの上場企業に共通する決算・開示業務における課題
1.リソース不足
□繁忙期の残業時間が多い/特定の担当者の残業時間が多い
□管理部門の人員が少ない/決算・開示の取り纏めができるキーマン不在
□実務経験者の採用ができず苦労している
□採用してもすぐに人が辞めてしまう
2.品質管理体制
□監査法人からミスを指摘されることが多い
□決算発表間際まで修正仕訳が入る
□会計基準や開示に関するルール改正をキャッチアップできていない
□担当者の知識・経験不足が課題である
3.業務属人化
□特定の方に業務が集中している
□担当者に聞かないとどのような作業をやっているか分からない業務がある
□引継ぎが困難なためローテーションを組むことができない業務がある
□管理職の方が自分で作業してしまい、業務手順が明確になっていない
4.IT活用による効率化、コア業務へのシフト
□エクセルの関数・VBA等の活用によって業務効率を改善したい
□システムの導入やRPAツール等の活用によって業務効率を改善したい
□社員にしかできない付加価値の高い業務にリソースを割きたい
□業務の整理を行い、アウトソーシングできるものは積極的に活用したい
これらの課題について、既に何らかの対策は打ってこられたが、上手く行っていない企業も多いのではないでしょうか。
下の表では、それぞれの課題に対して一般的に行われる対策とそれが上手く行かない根本的な理由、どう対策を打てば良いかについて整理しました。
リソース不足を課題と認識している企業において、経験者を採用したが直ぐに辞めてしまったといったケースや、採用活動を行っているが応募が集まらないと困っているケースもあると思います。この場合、社員が辞めてしまったり募集が集まらないのには何らかの原因があるはずです。例えば、上司との関係が上手く行かなかったことが要因であれば、新しく別の方を採用しても同じ様な事態が発生する可能性があります。ですから、職場環境や上司の部下に対する接し方の見直し、採用時の選考プロセスの見直しが必要かもしれません。また、応募が集まるようにするには、応募したくなるようなキャリアアッププランや働き方の魅力を磨いていくこと、そして労働環境を働きやすいようにしていくことも同時に考えなければなりません。
品質管理体制を改善するために実務経験者や会計士の方を採用したが、改善できていないという話も伺ったことがあります。例えば、子会社の経理レベルが低くその修正対応がボトルネックになってしまっている場合、いくら親会社で連結決算の知識を持つ会計士や実務経験者を採用したとしても、ボトルネックとなっている業務の特定とその改善の必要性に気づけなければ、直ぐに即戦力としてパフォーマンスを発揮することはできません。つまり、組織全体の課題とその優先順位を把握し、必要な人材ややるべきことを明確にしないと、課題を解決できないことがあります。
このように、それぞれの課題に対して、リソースが不足しているから人を雇ったり、品質を向上させるために会計士の方を雇ったとしても、必ずしも望む結果が得られないことがあります。その課題を完全に解決するためには、それぞれの課題となる事象が発生している根本的な要因を究明し、抜本的な解決策を検討することが必要です。ですから、これまで対処療法的に対策を打ってきたけれど根本的な解決に至っていないと悩まれている管理職の方は、業務改革(BPR)という視点に立ち、根本的に組織のあり方を見直すなどの解決策を検討してみて下さい。