ザッポスから学ぶサービス・カンパニー

以前、ある方の紹介で「ザッポスの奇跡」を読み、その時は、”こんな会社を創りたい”と思いました。それ以来、バイブルとして繰り返し読み返すようにしています。先日、この「ザッポスの奇跡」を久しぶりに読みましたが、当時の想いが蘇り、自社のサービスや社員教育を考え直す良い機会になりそうです。

これからの時代、企業が持続可能な成長をするための源になるのは、何といっても人です。その社員が日々の業務で判断するときの拠り所になる一貫したポリシー(経営理念)が強い会社を支えるのだと、この本は教えてくれます。

ザッポスのビジネスは、「靴のオンライン販売」です。
しかし、彼らは「(私たちの会社は、)『たまたま靴の販売業を営んでいるにすぎない』サービス・カンパニーです。」と説明するそうです。どの社員もそう答えるほど、同社のDNAとも呼べる一貫したポリシーが浸透しているところがザッポスの強みとなっています。
「顧客フレンドリーなサービス・ポリシー」や「常識はずれのコンタクトセンター」など、本で紹介されている同社のサービスの特徴は、一見真似できそうに思えますが、これを徹底するとなると非常に難しいことばかりだと思います。

最近、大手の企業では、あらゆる業務でIT化やシステム化が進み、生産性・効率性が飛躍的に向上しています。しかし、どんなにITを使って自動化し効率化を進めていっても、最終的にそれを使いこなすのは人です。したがって、どのようにシステム・ITを有効活用するかをアドバイスするサービスは絶対に必要ですし、最近はその重要性が益々高まっていると感じます。

私どもが提供しているサービスの領域でも、ERPや連結決算システム、ディスクロージャー支援システムの機能は日々進化し、もはやこれらのツール(システム)がなければ業務が回らないようになっております。これらのツールを使いこなすノウハウは、最終的に人から人へ伝えられていかなければなりませんが、専門知識を必要とする業務領域であること、業界全体で人手不足の状況が続いていること等の要因から、大手企業であっても業務の引継ぎがままならない会社が増えてしまっております。このような時代であるからこそ、「システムの機能の向上」よりも、「人による付加価値の高いサービス」が必要とされるのだと思います。

AI(人工知能)の技術発達により、もしかしたら近い将来はロボットがこれらの領域の主役になるかもしれません。しかし少なくとも現在は、IT化・システム化への投資が進み、高度なシステムに依存する業務が増えたことの弊害として、
”(手作業していた頃と比較して)業務に対する理解が低下する”
といった現象が色々なところで起きているのではないでしょうか。
ですから、「使いやすいシステムやツール」といった選択肢とともに、かゆいところにまで手が届く「気の利いたサービス」や至れり尽くせりの「家政婦サービス」のようなサービス形態も、選択肢の1つとして求められているのだと私は考えます。

私も、ザッポスを見習い、
”期待を超えるサービスを提供してお客様に感謝され、WOW(驚嘆)を与えられるようなサービス・カンパニーを目指したい!”
この本を読み返して、強くそう思いました。

プロジェクト型ビジネスにおける業績管理⑤

皆様の会社では、以下のような課題を抱えていませんか?

・プロジェクト単位での案件情報(契約内容や請求、入金予定など)や損益・収支情報がわからない

・社内リソースのアサイン状況や稼働率をタイムリーに把握できていない

・コスト意識が低い

このような課題を抱えている会社の多くは、共通点があります。

・プロジェクトが複数、同時に進行しており、契約形態も様々である

・プロジェクトの単位に関する社内ルールが曖昧(プロジェクト・コードの採番ルールが決まっていない)

・1つの請求書の中に複数種類の請求項目があり、社内の複数部署が関与している請求がある 等

このように管理の仕方が複雑で、明確な社内のルールが決まっていない会社の多くが、プロジェクト毎の業績管理が実施できておらず、いわゆる「どんぶり勘定」となってしまっているのです。

そこで、今回はプロジェクト毎の個別の業績管理を成功させるための7つのステップについて解説します。業種によって多少、状況が異なる場合もありますが、ここではシステムの受託開発会社のように、プロジェクト毎に仕様が異なり、数ヶ月にまたがって進行するプロジェクトが複数ある会社を例にして説明します。

 

STEP1.プロジェクト・タイプの整理

ITベンチャー企業を例にとると、採算管理で困っている会社の多くは、複数の形態(プロジェクト・タイプ)の業務を行っています。例えば、受託開発といっても、初期開発費用と保守・運用費用という別々の形で請求が行われることもありますし、受注前の提案フェーズでエンジニアが要件定義と基本設計の一部を進めてしまうこともあります。また、R&Dとしての開発などのプロジェクトが進行している会社もあります。精度の高い採算管理を行う上では、このような複数のフェーズ・種類のプロジェクトを整理して、それぞれのプロジェクトとして認識することが重要となります。

企業会計上も受注前のプリセールスに係る費用は販売管理費と認識すべきですし、受託開発業務において検収後に発生した費用はアフターフォロー(瑕疵担保義務の履行)として売上原価又は販売管理費として認識すべきですが、いずれも発生原因となる元のプロジェクトに紐付けてプロジェクトのスタートから終了までを(例えば親プロジェクト・子プロジェクトとして)一元管理することが有益です。

STEP2.セグメントの決定

第4回のブログで事業別損益の把握方法について解説しましたが、プロジェクト別損益は、社内の事業区分など経営者が採算管理したい単位をセグメント化し、各セグメントについて誰が採算の責任を負うかを決定する必要があります。ここでの「セグメント」という表現の意味は、必ずしも社内での組織としの事業部とは一致せず、採算管理を行う上でのプロジェクトの集計単位としての意味で用いることにします。

ポイントは、当該セグメントの事業に関する予算と実績に関する権限・責任を明確にしておくことです。例えば、月次の経営会議等のミーティングにおいて、それぞれの事業やグループのリーダーが活動報告等を行う際、それぞれのセグメント毎の業績に関する報告も合わせて行うようになり、いずれは当該関与している事業に関する一定の予算権限・裁量を持たせるようになると、現場にもコスト意識が芽生え、権限委譲が進み、結果として強い組織へと成長していきます。

STEP3.プロジェクト単位(採算管理の最小単位)の決定

社内にあるプロジェクトタイプの整理と、プロジェクトの集計単位としてのセグメントの方針がなされた後、それらを勘案して採算管理すべき最小単位、すなわちプロジェクト単位に関する社内ルールを決定する必要があります。

ここでのポイントは、プロジェクトタイプ(有償か無償か、検収前か後か、請負契約に基づくものか毎月請求できるものか等)が異なればプロジェクトは分けて管理すべきであること、そして、業績管理をする上で分離して採算を把握したいものがあれば、請求単位にかかわらずプロジェクトを分けて管理すべきという点です。

STEP4.プロジェクト・コード採番ルールの策定

プロジェクト単位が決まったら、それぞれのプロジェクトに管理ナンバー(プロジェクト・コード、案件番号、受注コード等)を採番するルールを策定しましょう。会計ソフトや基幹システム側で自動採番の機能があれば、それを使うのも良いと思います。しかし、手動で管理する場合には、セグメント別やプロジェクトタイプ別に付す記号や番号に意味を持たせ、採番する方法をお勧めします。こうしておけば、その後、業績管理をする際にExcel(表計算ソフト)等を使って集計するのが便利になります。

このプロジェクト・コードの採番にあたっては、既に採番済みの案件に関して継続的に状況確認を続け、すでに失注した案件などを放っておかないことが最大のポイントです。

STEP5.プロジェクト・ステータス区分の決定

プロジェクト・コードの採番ルールが決まれば、プロジェクト毎の採算管理をスタートすることはできますが、よりタイムリーにプロジェクト毎の案件情報を知るためには、各プロジェクトのステータスを常に最新の情報として共有する仕組みが必要となります。

すなわち、受注前の案件であれば受注確度がどの程度の案件なのかをランクA、B、Cなどを使って共有し、受注後であればプロジェクトの進捗を、検収後であれば請求・入金の状況等について、ステータスを各プロジェクトに紐付けて管理していくと、業績管理をより有意義なものとすることができます。

STEP6.共有が必要なドキュメント種類の決定

プロジェクトの数が多くなった場合、案件毎の情報、例えば契約条件や仕様、アサインメントの状況やプロジェクトリーダーに関する情報等をプロジェクトに紐付けて共有しておくと便利です。

もちろん、営業担当者、エンジニア・開発者、管理部門の担当者は、それぞれ必要とする情報が異なります。しかし、プロジェクトという単位で上記のドキュメントを整理し共有する仕組みを創り、少なくともリーダーの方はいつでもこれらを確認できる状態にしておくことが、プロジェクト管理でトラブルを回避するために有効な手段となります。

STEP7.プロジェクト承認ルールの決定

このようにプロジェクト単位毎にコードを採番し、プロジェクト毎のステータスや案件情報を共有する仕組みができたら、それらを承認するワークフローの仕組みを決めておきましょう。受注に関する承認は勿論ですが、それ以外にも、例えば無償で瑕疵対応する場合や受注前の提案フェーズでの作業など、何となく「見切り発車」して想定以上のロスが発生しないよう、社内の承認ルールを決定し、それを徹底することが重要なポイントです。これらの承認プロセスは、株式公開準備会社や上場会社では、内部統制上も重要なプロセスと評価されておりますので、留意が必要です。

このようなステップを経て、プロジェクト毎の業績管理は上手く機能するようになります。

上記の説明で分かるとおり、プロジェクト別損益管理を適切に行うためには、経理部門(管理部門)だけでなく、全社を巻き込んだ取り組みが必要となります。そして、いくら高価なシステム投資をしたとしても、決めるべき社内ルールが適切な手順(社内の合意形成のプロセス)を踏んで策定されない限り、プロジェクト別損益は正しく把握できません。

プロジェクト型ビジネスにおける業績管理④

今回は、事業別損益(実績)をどのように把握すべきかについて述べたいと思います。

皆様の会社では、以下のような課題を抱えていませんか?

・会社の採算管理ができていない

・複数の事業ドメインがあるが、それぞれの事業毎の損益がわからない

・複数の事業に共通して発生するコスト(例えば人件費)をどのように管理すべきかわからない

プロジェクト型ビジネスの企業の多くは、単一のビジネスではなく、複数の形態の売上があります。

一部の事業はプロジェクト単位で採算管理を行い、その他の事業はサービス別や商品・製品郡別に採算管理を行っている会社も多いと思いますが、いずれにしても、プロジェクト単位での業績管理を行う前に、まずは会社全体の損益を売上の種類等の区分に分けて把握する必要があります。

この売上の種類等の区分は、事業別、サービス別、売上種別、セグメント別など様々な呼び方をされますが、要するに経営者が把握したい事業単位毎の損益情報は、経営の意思決定を行う上で重要な情報となります。(以下では、これらをまとめて事業別損益と呼びます。)

この点、売上を種類別に把握することはできても、それぞれの売上に紐付く原価や販売費及び一般管理費を把握することは難しく、事業別損益を正確に把握できている会社は、実は意外と少ないのです。

この事業別損益の把握を難しくしている要因として、原価や販売費及び一般管理費の中に、売上の発生と直接結び付かないコスト(これを間接費と呼びます。)や、会社を存続させるために必要な全社コスト(これを本社費と呼びます。)の存在があります。

つまり、これらのコストを何らかの人為的な基準で各事業別に配賦しなければ事業別損益を把握することは出来ないのです。

ここで、事業別損益の構造を説明するために、下記にサンプルを図示します。

(図表:事業部別損益計算書)

図表2

 

まず、各事業に直接紐付く原価や販売費を変動費(売上の増減に比例して発生するもの)と固定費(売上の増減にかかわらず固定的に発生するもの)に分類して、各事業部毎に集計します。

この時、売上から変動費を差し引いた利益を限界利益と呼び、そこから個別固定費を差し引いた利益を(事業部)貢献利益と呼びます。

上の例では、限界利益がA事業では80(限界利益率40%)、B事業では30(限界利益率30%)ですので、A事業のほうが利益率の高い事業であることがわかります。

また、事業毎に区別できる固定費を差し引いた貢献利益は、A事業が70、B事業が20となっていますが、これは、共通固定費を配賦する前の事業別の利益を表す指標であり、本社費配賦額を回収するための利益を意味します。

B事業については、本社費配賦後は△10の赤字となっておりますが、共通固定費(本社費)を配賦する前の貢献利益がプラスであることから、B事業も会社全体の利益には貢献しており、その事業からは撤退すべきではないことが解かります。

実務上は、各売上に直接紐付かない間接費をどのような配賦基準に基づき配賦していくか、また、原価に区分される労務費を各事業別(プロジェクト別)にどのように按分していくかを予め決定しておくことが必要となります。

また、どの費目までを各事業に紐付く費用をするか(つまり個別固定費とするか)で議論になることが多いですが、「各事業においてコントロール可能な費用か否か」という点が一つの判断基準になります。

本社費等の共通固定費は、事業別の売上高や人数等の比率に応じて各事業に配賦するのが一般的ですが、この按分基準は恣意的なものであることから共通固定費控除後の利益額はあまり重要な意味を持たず、実務上は各事業別の貢献利益を主要な経営指標(KPI)として業績管理が行われます。

以上のように、事業別損益を把握するにあたっては、労務費の按分基準、製造間接費の配賦基準、部門共通費(本社費)の配賦基準をそれぞれ決定し、按分計算・配賦計算を行うことが必要となります。

各事業のコスト構造を把握し、それに適合した按分基準・配賦基準に関するルールづくりを行うことが部門別損益計算を精緻に行う上でのカギとなります。

プロジェクト型ビジネスにおける業績管理③

プロジェクト型ビジネスを行う企業の多くは、「契約形態の特殊性(請負型)」、「案件毎に仕様が異なり個別の採算管理が必要」といった特徴に起因して、損益計画を立てても実績との乖離が大きく、どう対策を打てば良いかわからない、あるいは、タイムリーに業績を把握できないために施策が後手になってしまう等、業績管理を行う上で様々な課題を抱えています。

プロジェクト毎のコストを把握できる仕組みがなく、社内で過去の実績値のデータを持っていなければ、新たな受注を行う際の見積書の積算は経営者の「勘」に頼らざるを得ず、採算割れ(赤字)となっていたことが後から判明する事態も生じかねません。

そこで今回は、予算(業績予想、損益計画)の精度を上げるにはどうすれば良いか、というテーマでこれまでの経験に基づく持論を述べたいと思います。

予算の精度を上げるためにはいくつかのステップを踏む必要があります。業種や会社規模によって優先すべき課題は異なることもありますが、概ね以下のようなステップで体制を構築すれば、確実に予算精度は向上します。

STEP.1 過去の事業別損益(実績)を把握する

 STEP.2 過去のプロジェクト別損益(実績)を把握する

 STEP.3 将来の事業別損益(予算)を計画し、予実分析を行う

 STEP.4 見込案件の管理・共有を行い、タイムリーなプロジェクト別予実管理を行う

まず、複数の事業を行っている場合には、少なくとも事業セグメント別の業績を把握できる仕組みを準備する必要があります。そして、STEP.1~2で挙げた過去の実績を、経済事象に合わせて適切に把握する仕組みを持たなければ、予実管理を正しく実施することはできず、予算精度の向上は期待できません。

STEP.2で挙げたプロジェクト別損益の把握については、ビジネスの形態によってプロジェクト単位の捉え方は様々です。サービス別、製品群別、商流別、プロジェクトタイプ別など、業績管理の目的に適合するようプロジェクトの集計単位を決定し、それに沿った最小のプロジェクト単位、プロジェクトコードの採番ルールを決定することで、プロジェクト別の採算管理が有効に機能するようになります。

次に、過去の事業別損益、プロジェクト別損益の実績とその推移を参考に、STEP.3の損益計画を立案します。これにより根拠に裏づけされた「積上げ式」の予算作成が可能となり、各事業別の予実管理が機能するようになります。

これらのステップを経て、PDCAを繰り返すことにより予算の精度を向上させることができます。

予算や事業計画の立て方について、書籍等を参考にすれば直ぐに体裁を整えることは可能ですが、本当に経営管理に役立てるためには、過去の実績と現状の業績に関する正しい理解が不可欠であると思います。ですから、STEP1~2を各企業の実態に合わせて適切に把握できるようになることがSTEP.3に挙げた予算の精度を向上させるために避けては通れない道だと私は思います。

さらに、STEP. 4に挙げたとおり、見込案件(提案中の案件など)の受注確度予測等を共有し、着地見込みのシミュレーションができる仕組みを構築することで、各プロジェクトメンバーの採算管理に関する意識が高まり、予算を達成するための施策を早期に考え実行に移すことができる組織へと変革することができるようになります。

以前、私が勤めていたITベンチャー企業では、株式公開の準備を進めていたこともあり、プロジェクト別の(個別)原価計算を行っていましたので、STEP1~2は概ね実践できていました。

年度毎に事業部別予算も作成していましたが、予算と実績との乖離が大きく、予実管理が意味を成さないことが課題でした。

すなわち、毎月の経営会議で予算と実績の差異及びその原因を報告していましたが、その時点での報告では既に手遅れとなっており、手の打ちようがなかったのです。

そのため、プロジェクトの情報をリアルタイムに共有し、プロジェクトリーダーが営業ステータスからエンジニアのプロジェクト別工数、見込原価までをいつでも見られる体制を構築するのに奔走しました。

これらの経験から、STEP.4を通じてタイムリーに売上・損益着地見込(フォーキャスト)を捉え、経営に活かすことの必要性を実感しました。

皆さんの会社では如何でしょうか?

 

プロジェクト型ビジネスにおける業績管理②

私は、株式公開準備企業や上場企業の方から、プロジェクト別損益管理/予実管理に関する相談を年に数件、受けております。

悩みを抱えている企業の業種は、システム受託開発会社、インターネットメディア・広告代理事業を行っている会社、オンラインゲームやソーシャルゲームアプリの開発・販売を行っている企業など多岐に渡りますが、これらの企業の多くはプロジェクト単位での事業を展開されておられます。(以下、これらの会社を「プロジェクト型ビジネス」と呼びます。)

プロジェクト型ビジネスを行っている企業経営者の多くは、損益計画(予算)をどのように立てれば良いかについて様々な苦労をされており、次のような同じ悩みを抱えていらっしゃいます。

「計画を立ててもその通りに達成できた例がない」

「こんなに忙しくしているのに、何故、利益が思ったほど出てないのだろう・・・」

「経理から上がってくる業績報告が遅く、意思決定が後手に回ってしまう・・・」

「プロジェクト毎の採算管理ができていない」

「コスト管理がどんぶり勘定になってしまっている」 等々

 

社長の目の届く範囲内でビジネスをしている小規模企業であれば、社長の感覚、勘に頼った経営をしていても支障をきたさないかもしれませんが、更なる成長を目指している企業、株式上場を目指している企業、ましてや既に上場している企業であれば、このような業績管理では財務責任者が困ってしまうでしょう。

これを解決するために、多額のシステム投資を検討し、社内の業務フローを強制的にシステムの仕様に合わせて変更し、改善を図ろうとされる企業様もいらっしゃいます。

しかし、システムベンダー側で予実管理等の業務経験が無い技術者や営業担当が顧客窓口となり、顧客側のニーズが理解されないまま導入が進められてしまった結果、期待していた効果が得られなかった、といった事例も聞きます。

では、何故、このような同じ悩みを抱えられているのでしょうか?

その原因の多くは、プロジェクト型ビジネスの特徴と関連します。

 

以下の表1は、システム開発やWEB制作など請負契約によりサービスを提供されている会社を例に、プロジェクト型ビジネスの特徴と業績管理の課題をまとめたものです。

(表1)プロジェクト型ビジネスの特徴と業績管理の課題

表1

図表1

このように、契約形態の特殊性、個別案件毎の採算管理が必要、コストに占める人件費の割合が高い等、プロジェクト型ビジネスの特徴に起因して、同じような課題をいくつも抱えている会社が多いのです。

そして、1年先の受注見込額を正確に予測することなど現実には不可能なことなので、

・目標売上高に関して現在のところ、どの程度達成できているか

・このまま予定通りに検収されると今期の着地見込がどうなるか

といった情報をタイムリーに把握することが重要となります。

特に、受注後、検収時までの期間が数ヶ月間にわたる場合、売上に紐付く原価(や販売費及び一般管理費)を把握できなければ、プロジェクト毎の採算を把握することができません。

プロジェクト毎の採算管理を行うためには、管理部門のみならず、製造部門(や場合によっては営業部門)を巻き込んで、全社で業績管理に取り組む姿勢が必要となります。

各プロジェクトへの労務費配賦計算には、現場の方がどのプロジェクトにどれくらいの工数を割いたかを記録・報告してもらうことが不可欠だからです。

業種によっては、労務費の配賦計算までは必要ない会社もあると思いますが、少なくとも複数の事業・サービスを行っている場合には、事業別、サービス別(製品別)に原価を分けて採算管理をすることが求められます。

このように、全社での取り組みが必要で、なおかつ、タイムリーな情報収集が求められることから、プロジェクト型ビジネスの業績管理は難しく、多くの会社で課題を抱えているのです。

皆さんの会社では如何でしょうか?

いま計画されているマネジメントの方法がご自身の会社のビジネスにマッチしているのか、考えるきっかけになれば幸いです。

プロジェクト型ビジネスにおける業績管理①

最近、IPO(新規上場)マーケットは活況を取り戻しつつあります。

2014年のIPOマーケットはアベノミクス政策にけん引された経済活性化、株式市場の活況展開を背景に77社が上場。2015年は、2014年以上の内容となりそうだと言われています。

一方で、このIPOブームに水を差すような出来事も起きました。

スマートフォン向けゲームを開発、配信する会社が、上場からわずか2ヶ月半で業績見通しを黒字予想から赤字予想へと下方修正するなど、上場直後に業績見通しを引き下げる企業が相次いでいます。

私の聞いた限りでも、上場が延期になった企業が数社あり、取引所及び証券会社の上場審査が以前よりもはるかに厳しくなったという話もあります。

ところで、この「業績予想の開示」は、取引所に上場している企業に開示が義務付けられている情報であり、業績の着地見込みが当初の予想と比べて一定の範囲以上にズレる見込みとなった場合、業績予想の修正を適時に開示しなければならないこととされています。

投資家のみならず、企業経営者にとっても、会社の業績見通しをタイムリーに知ることは、意思決定を行う上で非常に重要なことですから、そのための「仕組み」を構築することは、重要な経営課題の1つに挙げられると思います。

私は、以前、ITベンチャー企業において決算・業績管理を取り纏める仕事をしておりました。その時の経験から、受託型で業務を請け負うビジネスモデルの会社にとって、この業績見通しをタイムリーに把握するというのは非常に難しいことだと実感しました。

なぜなら、いくら損益計画を緻密に練り上げて作っても、大型案件の検収時期が1ヶ月遅れただけで月次損益の数値は大きく変わってしまいますし、案件別の損益を把握するには、現場の協力とタイムリーな情報収集の仕組みが必要だからです。

前職を退職し、会計コンサルティング会社として独立した後も、このように業績管理に苦労されている方々から相談を受けております。

システム開発会社からネット広告を扱う会社、ゲーム制作会社、イベントをプロデュースまで業種も様々ですが、やはり同じような悩みを抱えられている企業は非常に多いです。

そこで、本ブログを通じて、主にプロジェクト型ビジネスを行っている企業の経営者、CFO、経営企画担当者、経理部の方々を対象に、業績管理を行う上で参考になるであろう話を皆様にお伝えできればと思っています。

ビジョナリーカンパニー②から学ぶ新規事業の立ち上げ

「ビジョナリー・カンパニー2 飛躍の法則」は、新しく会社を興して事業をスタートさせる人や新規事業の立ち上げに携わる方にとって、とても参考になる本です。私は、学生の頃、「ビジョナリー・カンパニー」を始めて手にして以後、このシリーズを事ある毎に読み直していますが、読む度に新しい発見があり、示唆に富む内容となっていると思います。今回は、その中の一説を御紹介したいと思います。

誰をバスに乗せるか

この著書でコリンズは、「良好な企業から偉大な企業へ飛躍を遂げ、その実績を少なくとも15年にわたって維持してきた11社」に共通する要因を紹介しています。

コリンズは、このように言っています。

今回の調査を始めたとき、良好な企業を偉大な企業に飛躍させるためには、新しいビジョン、戦略を策定し、次に新しい方向に向けて人々を結集するのだろうと我々は予想していた。調査の結果は全く逆であった。偉大な企業への飛躍をもたらした経営者は、まずバスの目的地を決め、次に目的地までの旅をともにする人々をバスに乗せる方法をとったわけではない。まず、適切な人をバスに乗せ、不適切な人をバスから降ろし、その後にどこに向かうべきかを決めている。

”このバスでどこに行くべきかは分らない。しかし、分っていることもある。適切な人がバスに乗り、適切な人がそれぞれふさわしい席につき、不適切な人がバスから降りれば、素晴らしい場所に行く方法を決められるはずだ”

確かにその通りであると、最近、つくづくそう思います。

当初の事業計画どおりに新規事業を立ち上げられることなどなく、現実には、試行錯誤を繰り返し、軌道修正を図りながら事業を創っていくしかありません。問題は、困難な状況にぶつかったとき、最後には必ず勝つという信念を失わず、それを信じるメンバーが同じ「バス」に乗っているかどうかです。

ビジョンも、戦術も、戦略も、組織も、「誰を選ぶか」を決めた後に考えれば良い・・・。

ベンチャー企業においては、特に立ち上げ当初は、経営方針や戦略は変わることもあり得ます。始めから戦略を1本に絞るのではなく、自社の強みが見つかり、成果・業績が上がり始めてから、方針と戦略を策定する方が、よほど現実的であると私は思います。

ブログ始めました!

はじめまして。ディスクロージャー・プロ代表の末永です。

私は、大手監査法人出身の会計士で、2012年に独立開業し、現在は、主に上場企業の決算支援や開示書類(有価証券報告書や決算短信、会社法計算書類等)の作成支援を行っております。

このブログでは、日々の業務を行う上で考えていることや感じたこと、苦労した経験談、上場企業の経理・開示実務担当者に役立つ情報などをテーマに情報発信していきたいと考えております。皆様方の会社におけるマネジメントのヒントとなり、決算・開示実務の課題解決に少しでもお役立ていただければ幸いです。