業務属人化からの脱却方法③-業務属人化がもたらすリスク

今回は、法定開示書類作成実務における業務属人化のリスクについて解説します。

『開示実務ができるキーマンがいて、それで実務が回っていれば特に問題ないではないか?』と考えられる方もいらっしゃると思います。この業務属人化という状況を放っておくとどのような事態を招くのかについて、当社で提案に伺った際に伺った実話をもとに、いくつかの事例を紹介します。

ケース1:誰とも業務を共有しないまま、経理部長が突然退社

上場申請書類の作成から上場後の開示書類の作成まで取り纏め役として、開示書類の大部分に関わってこられた方が急遽退社され、過去に作成した開示根拠資料がどこにあるか、どのように集計・作成されていたかなどの引継ぎが十分になされなかったそうです。後を託された方が対応に困り、弊社へ相談が持ち込まれました。
この会社では開示の実務経験者の採用も行われておりましたが、良い方が直ぐには見つからず困っておられました。
このようなケースが生じると何が問題となるかというと、まずは過去の注記や書類の作成プロセスを十分に理解しないまま本決算対応をすることになり、当然、過去のやり方・考え方と違うポリシーで作成してしまう、あるいは、情報不足で誤った数字を拾ってしまうなどの誤謬発生リスクが高まります。
また、このお客様のケースでは何とか予定通りに決算発表、法定開示書類の提出が間に合いましたが、場合によっては開示書類提出の遅延、つまり開示遅延リスクを招くことにもなりかねません。
さらに、急いで採用を決定してしまうと、採用のミスマッチが生じるなど、採用リスクも高まることにつながります。
この様に、キーマンが突然退社されると、様々なリスクが生じます。

ケース2:担当者が産休のため、1年間休職することが決定

この会社では、開示システムへの入力業務を担当されていた方が産休に入られることとなり、その結果、開示書類の作成、入力ができる担当者が一次的に不在になるという事態になりました。
産後、復職された後はこれまで通りの体制に戻る予定であったため、一時的なリソース不足を補うため、弊社にアウトソーシングのご相談がございました。
この様なケースでは、リソースの補充という手段が採れない限り、上長や同僚の業務負荷が高まり、長時間労働での対応を余儀なくされる事態も想定されます。そうなりますと、体調を崩すなどの労務リスクや、場合によっては疲労やストレスが原因で退職してしまうという事態(退職リスク)を招きかねません。

ケース3:管理部門責任者が連結決算から開示まで1人で担当

この会社では、管理部門責任者による会社資金の私的流用、着服が発覚し、責任者の方が解雇されました。
これまで連結決算から開示までこの方が1人で対応され、引継ぎ資料やマニュアルなどが存在しなかった為に、これまでの作成プロセスを紐解くだけで相当の時間がかかってしまったそうです。そこで、決算発表が期日に間に合わなくなるリスクを回避するため、弊社で開示書類の作成部分を支援することとなりました。
この会社のように、特定のキーマンに業務が集中し、それをチェックする人がいない状況を作ってしまうと、このケースのように不正リスクに繋がりかねないので、ガバナンスの観点からも業務分担とその統制には十分な留意が必要となります。

 

これら3ケースは、上場会社において実際に起きた事例です。

確かに、業務の属人化が起きてしまっていたとしても直ぐには困らないかもしれませんが、ここで紹介したリスクを考えると、上場会社として継続開示義務を負っている以上は、何らかの対策を検討しなければなりません。

次回のコラムから、属人化を解消する方法について解説します。

決算・財務報告プロセスにおける内部統制③――不適切会計の事例に学ぶ内部統制の重要性(A社)

このコラムでは、実際に起きた不適切会計の事例を紹介し、それぞれの事例での内部統制上の問題点を検証し、決算・財務報告プロセスで経理部門が果たすべき役割について考えてみたいと思います。

A社の事例

【収益認識基準】

従来から監査法人に機械装置の売上取引に係る検収の事実が不明確であるとの指摘を受けていたことから、機械装置の売上取引に際しては、顧客との間で「商品売買契約書」及び「検収確認書兼受領書」を取り交わすこととし、当該受領書に基づき検収基準で収益を認識していた。

【不適切会計の事実】

顧客は検収時点で当該受領書に押印等を行なっていたのではなく、当社から依頼をして押印等をしてもらっていた。すなわち、本来、検収を表すべき証憑が適切に運用されず形骸化し、出荷基準での売上計上が続いていた。

【内部統制上の問題点】

機械装置をエンドユーザーの施設内に設置する際に、作業報告書を作成していた。ところが、この書類は会計記録に係る証憑書類として位置づけられていなかったことから、設置完了前の時点で売上計上されてしまっていた。

決算・財務報告プロセスにおける内部統制構築のポイント

第三者委員会の報告書でも指摘があるとおり、設置完了日が明らかとなる証憑があったにも関わらず、それを会計記録に関する証憑書類として扱っていなかったため、受領証との照合などが行なわれなかった点、すなわち売上計上の承認を行なうという統制手続きのデザイン(内部統制の整備状況)自体に問題があったといえます。

正しい証憑を用いて照合手続きを行い、売上の計上時期の妥当性を検証するプロセスがあれば、そもそもこうした偽装は起こらなかったかもしれません。また、おそらくこの会社を担当していた監査法人も重要な取引先に対する残高確認は行なっていたと思いますが、経理部門の方でもこの顧客に対して期末の売掛金に対する残高確認を行い、本来ズレる筈のない、この機械装置に係る債務認識について差異が発生していることが判明し、かつ、その原因追及までできていれば、不正の発生を食い止めることができたかもしれません。また、売掛金の年齢調べを行なう際、この顧客からの入金サイトが通常のサイクルより長いといった事態が見つかっていたかもしれません。

このように、経理部門、管理部門が主体となって行なうことができる内部統制の手続きは様々なものがあり、これらの手続きが有効に機能していれば、売上責任を負っている販売部門や事業部の不正を発覚できる可能性もあったと思います。

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