今回は、事業別損益(実績)をどのように把握すべきかについて述べたいと思います。
皆様の会社では、以下のような課題を抱えていませんか?
・会社の採算管理ができていない
・複数の事業ドメインがあるが、それぞれの事業毎の損益がわからない
・複数の事業に共通して発生するコスト(例えば人件費)をどのように管理すべきかわからない
プロジェクト型ビジネスの企業の多くは、単一のビジネスではなく、複数の形態の売上があります。
一部の事業はプロジェクト単位で採算管理を行い、その他の事業はサービス別や商品・製品郡別に採算管理を行っている会社も多いと思いますが、いずれにしても、プロジェクト単位での業績管理を行う前に、まずは会社全体の損益を売上の種類等の区分に分けて把握する必要があります。
この売上の種類等の区分は、事業別、サービス別、売上種別、セグメント別など様々な呼び方をされますが、要するに経営者が把握したい事業単位毎の損益情報は、経営の意思決定を行う上で重要な情報となります。(以下では、これらをまとめて事業別損益と呼びます。)
この点、売上を種類別に把握することはできても、それぞれの売上に紐付く原価や販売費及び一般管理費を把握することは難しく、事業別損益を正確に把握できている会社は、実は意外と少ないのです。
この事業別損益の把握を難しくしている要因として、原価や販売費及び一般管理費の中に、売上の発生と直接結び付かないコスト(これを間接費と呼びます。)や、会社を存続させるために必要な全社コスト(これを本社費と呼びます。)の存在があります。
つまり、これらのコストを何らかの人為的な基準で各事業別に配賦しなければ事業別損益を把握することは出来ないのです。
ここで、事業別損益の構造を説明するために、下記にサンプルを図示します。
(図表:事業部別損益計算書)
まず、各事業に直接紐付く原価や販売費を変動費(売上の増減に比例して発生するもの)と固定費(売上の増減にかかわらず固定的に発生するもの)に分類して、各事業部毎に集計します。
この時、売上から変動費を差し引いた利益を限界利益と呼び、そこから個別固定費を差し引いた利益を(事業部)貢献利益と呼びます。
上の例では、限界利益がA事業では80(限界利益率40%)、B事業では30(限界利益率30%)ですので、A事業のほうが利益率の高い事業であることがわかります。
また、事業毎に区別できる固定費を差し引いた貢献利益は、A事業が70、B事業が20となっていますが、これは、共通固定費を配賦する前の事業別の利益を表す指標であり、本社費配賦額を回収するための利益を意味します。
B事業については、本社費配賦後は△10の赤字となっておりますが、共通固定費(本社費)を配賦する前の貢献利益がプラスであることから、B事業も会社全体の利益には貢献しており、その事業からは撤退すべきではないことが解かります。
実務上は、各売上に直接紐付かない間接費をどのような配賦基準に基づき配賦していくか、また、原価に区分される労務費を各事業別(プロジェクト別)にどのように按分していくかを予め決定しておくことが必要となります。
また、どの費目までを各事業に紐付く費用をするか(つまり個別固定費とするか)で議論になることが多いですが、「各事業においてコントロール可能な費用か否か」という点が一つの判断基準になります。
本社費等の共通固定費は、事業別の売上高や人数等の比率に応じて各事業に配賦するのが一般的ですが、この按分基準は恣意的なものであることから共通固定費控除後の利益額はあまり重要な意味を持たず、実務上は各事業別の貢献利益を主要な経営指標(KPI)として業績管理が行われます。
以上のように、事業別損益を把握するにあたっては、労務費の按分基準、製造間接費の配賦基準、部門共通費(本社費)の配賦基準をそれぞれ決定し、按分計算・配賦計算を行うことが必要となります。
各事業のコスト構造を把握し、それに適合した按分基準・配賦基準に関するルールづくりを行うことが部門別損益計算を精緻に行う上でのカギとなります。