プロジェクト型ビジネスにおける業績管理④

今回は、事業別損益(実績)をどのように把握すべきかについて述べたいと思います。

皆様の会社では、以下のような課題を抱えていませんか?

・会社の採算管理ができていない

・複数の事業ドメインがあるが、それぞれの事業毎の損益がわからない

・複数の事業に共通して発生するコスト(例えば人件費)をどのように管理すべきかわからない

プロジェクト型ビジネスの企業の多くは、単一のビジネスではなく、複数の形態の売上があります。

一部の事業はプロジェクト単位で採算管理を行い、その他の事業はサービス別や商品・製品郡別に採算管理を行っている会社も多いと思いますが、いずれにしても、プロジェクト単位での業績管理を行う前に、まずは会社全体の損益を売上の種類等の区分に分けて把握する必要があります。

この売上の種類等の区分は、事業別、サービス別、売上種別、セグメント別など様々な呼び方をされますが、要するに経営者が把握したい事業単位毎の損益情報は、経営の意思決定を行う上で重要な情報となります。(以下では、これらをまとめて事業別損益と呼びます。)

この点、売上を種類別に把握することはできても、それぞれの売上に紐付く原価や販売費及び一般管理費を把握することは難しく、事業別損益を正確に把握できている会社は、実は意外と少ないのです。

この事業別損益の把握を難しくしている要因として、原価や販売費及び一般管理費の中に、売上の発生と直接結び付かないコスト(これを間接費と呼びます。)や、会社を存続させるために必要な全社コスト(これを本社費と呼びます。)の存在があります。

つまり、これらのコストを何らかの人為的な基準で各事業別に配賦しなければ事業別損益を把握することは出来ないのです。

ここで、事業別損益の構造を説明するために、下記にサンプルを図示します。

(図表:事業部別損益計算書)

図表2

 

まず、各事業に直接紐付く原価や販売費を変動費(売上の増減に比例して発生するもの)と固定費(売上の増減にかかわらず固定的に発生するもの)に分類して、各事業部毎に集計します。

この時、売上から変動費を差し引いた利益を限界利益と呼び、そこから個別固定費を差し引いた利益を(事業部)貢献利益と呼びます。

上の例では、限界利益がA事業では80(限界利益率40%)、B事業では30(限界利益率30%)ですので、A事業のほうが利益率の高い事業であることがわかります。

また、事業毎に区別できる固定費を差し引いた貢献利益は、A事業が70、B事業が20となっていますが、これは、共通固定費を配賦する前の事業別の利益を表す指標であり、本社費配賦額を回収するための利益を意味します。

B事業については、本社費配賦後は△10の赤字となっておりますが、共通固定費(本社費)を配賦する前の貢献利益がプラスであることから、B事業も会社全体の利益には貢献しており、その事業からは撤退すべきではないことが解かります。

実務上は、各売上に直接紐付かない間接費をどのような配賦基準に基づき配賦していくか、また、原価に区分される労務費を各事業別(プロジェクト別)にどのように按分していくかを予め決定しておくことが必要となります。

また、どの費目までを各事業に紐付く費用をするか(つまり個別固定費とするか)で議論になることが多いですが、「各事業においてコントロール可能な費用か否か」という点が一つの判断基準になります。

本社費等の共通固定費は、事業別の売上高や人数等の比率に応じて各事業に配賦するのが一般的ですが、この按分基準は恣意的なものであることから共通固定費控除後の利益額はあまり重要な意味を持たず、実務上は各事業別の貢献利益を主要な経営指標(KPI)として業績管理が行われます。

以上のように、事業別損益を把握するにあたっては、労務費の按分基準、製造間接費の配賦基準、部門共通費(本社費)の配賦基準をそれぞれ決定し、按分計算・配賦計算を行うことが必要となります。

各事業のコスト構造を把握し、それに適合した按分基準・配賦基準に関するルールづくりを行うことが部門別損益計算を精緻に行う上でのカギとなります。

プロジェクト型ビジネスにおける業績管理③

プロジェクト型ビジネスを行う企業の多くは、「契約形態の特殊性(請負型)」、「案件毎に仕様が異なり個別の採算管理が必要」といった特徴に起因して、損益計画を立てても実績との乖離が大きく、どう対策を打てば良いかわからない、あるいは、タイムリーに業績を把握できないために施策が後手になってしまう等、業績管理を行う上で様々な課題を抱えています。

プロジェクト毎のコストを把握できる仕組みがなく、社内で過去の実績値のデータを持っていなければ、新たな受注を行う際の見積書の積算は経営者の「勘」に頼らざるを得ず、採算割れ(赤字)となっていたことが後から判明する事態も生じかねません。

そこで今回は、予算(業績予想、損益計画)の精度を上げるにはどうすれば良いか、というテーマでこれまでの経験に基づく持論を述べたいと思います。

予算の精度を上げるためにはいくつかのステップを踏む必要があります。業種や会社規模によって優先すべき課題は異なることもありますが、概ね以下のようなステップで体制を構築すれば、確実に予算精度は向上します。

STEP.1 過去の事業別損益(実績)を把握する

 STEP.2 過去のプロジェクト別損益(実績)を把握する

 STEP.3 将来の事業別損益(予算)を計画し、予実分析を行う

 STEP.4 見込案件の管理・共有を行い、タイムリーなプロジェクト別予実管理を行う

まず、複数の事業を行っている場合には、少なくとも事業セグメント別の業績を把握できる仕組みを準備する必要があります。そして、STEP.1~2で挙げた過去の実績を、経済事象に合わせて適切に把握する仕組みを持たなければ、予実管理を正しく実施することはできず、予算精度の向上は期待できません。

STEP.2で挙げたプロジェクト別損益の把握については、ビジネスの形態によってプロジェクト単位の捉え方は様々です。サービス別、製品群別、商流別、プロジェクトタイプ別など、業績管理の目的に適合するようプロジェクトの集計単位を決定し、それに沿った最小のプロジェクト単位、プロジェクトコードの採番ルールを決定することで、プロジェクト別の採算管理が有効に機能するようになります。

次に、過去の事業別損益、プロジェクト別損益の実績とその推移を参考に、STEP.3の損益計画を立案します。これにより根拠に裏づけされた「積上げ式」の予算作成が可能となり、各事業別の予実管理が機能するようになります。

これらのステップを経て、PDCAを繰り返すことにより予算の精度を向上させることができます。

予算や事業計画の立て方について、書籍等を参考にすれば直ぐに体裁を整えることは可能ですが、本当に経営管理に役立てるためには、過去の実績と現状の業績に関する正しい理解が不可欠であると思います。ですから、STEP1~2を各企業の実態に合わせて適切に把握できるようになることがSTEP.3に挙げた予算の精度を向上させるために避けては通れない道だと私は思います。

さらに、STEP. 4に挙げたとおり、見込案件(提案中の案件など)の受注確度予測等を共有し、着地見込みのシミュレーションができる仕組みを構築することで、各プロジェクトメンバーの採算管理に関する意識が高まり、予算を達成するための施策を早期に考え実行に移すことができる組織へと変革することができるようになります。

以前、私が勤めていたITベンチャー企業では、株式公開の準備を進めていたこともあり、プロジェクト別の(個別)原価計算を行っていましたので、STEP1~2は概ね実践できていました。

年度毎に事業部別予算も作成していましたが、予算と実績との乖離が大きく、予実管理が意味を成さないことが課題でした。

すなわち、毎月の経営会議で予算と実績の差異及びその原因を報告していましたが、その時点での報告では既に手遅れとなっており、手の打ちようがなかったのです。

そのため、プロジェクトの情報をリアルタイムに共有し、プロジェクトリーダーが営業ステータスからエンジニアのプロジェクト別工数、見込原価までをいつでも見られる体制を構築するのに奔走しました。

これらの経験から、STEP.4を通じてタイムリーに売上・損益着地見込(フォーキャスト)を捉え、経営に活かすことの必要性を実感しました。

皆さんの会社では如何でしょうか?