東芝 PwCあらた監査法人の起用を発表

会計不祥事を受けて会計監査人の交代を検討していた東芝は、1月27日、現任の新日本監査法人の後任にPwCあらた監査法人を起用すると発表しました。

今後、2016年6月開催予定の定時株主総会に提出する会計監査人の選任に関する議案の内容を決定し、定時株主総会に上程される予定だそうです。

東芝プレスリリース

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不適切会計とガバナンス

先日、東芝の会計不祥事を巡り、証券取引等監視委員会は行政処分として、月内(2015年11月中)にも同社に課徴金を科すよう金融庁に勧告するとの報道がなされました。課徴金は70億円を超え過去最高額となる見通しです。今回は、このニュースに関連して、不適切会計に関しての私見を述べたいと思います。

東芝に限らず、不適切な会計処理をしていたことが第三者委員会の調査等で発覚し、決算を遡及して修正している上場企業は、近年、増えております。これら訂正報告書を提出している上場企業の内部統制報告書を閲覧すると、ほとんどの会社において、その対象期において内部統制上の不備はなかったとの報告書が提出されていました。にもかかわらず、不適切会計に起因する財務諸表の虚偽記載が行われるケースが後を絶ちません。

いったい、何故、東芝のように革新的なコーポレートガバナンス体制を採っているとされている企業でさえ、このような不祥事が発生してしまうのでしょうか?

2015年7月20日に公表されました同社の第三者委員会の調査報告書によれば、工事進行基準案件に係る会計処理等において不適切な会計処理が行われていることが判明したとのことです。その背景として、事業戦略上の必要性から入札に勝つために、具体的な裏付けのないコスト削減策が含まれた工事原価総額が使用され、あるいは、受注後の仕様変更等により追加工事が発生したにもかかわらず、正式な注文書を発行せず、減額交渉を行っていること等を理由に見積工事原価総額に含めないなどして、工事原価総額を過少に見積られていたと報告されました。また、契約受注時点から赤字が見込まれていた案件や工事期間中に赤字になる可能性が高まった案件についても、トップダウンの指示や予算目標必達のプレッシャー等を背景に、引当金の計上を回避し、損失計上の先送りが行われたようです。

他の不適切会計の事例を調べても、東芝のケースのように、形式的には、各事業部から独立した管理部門や内部監査部門など牽制機能を発揮するように組織は整備されているものの、実質的には、機能不全に陥っているケースは多いようです。すなわち、各事業部の責任者が承認しなければ引当金の計上や工事原価総額の修正を行うことはできない組織風土になっていて、経営者による不正リスクに対する内部統制が機能していないということです。東芝の会計不祥事の発生経緯も、まさにこの機能不全が原因であったと調査報告書には記載されています。

そして、その根幹には、日本企業特有の「馴れ合い」によるガバナンスが行われているという実態があると私は思います。経営陣が短期的な業績にこだわる背景には、社内の出世・派閥争いや財界での地位への執着等があり、周囲の人間は皆それらの事情を知っています。ですから、暗黙の了解のもと、無理な決算が組まれ、それが是正されずに決算発表されてしまうという構図が生まれるのです。

企業業績の実態が歪められて株主・投資家に伝えられることのないよう、受注損失引当金や工事進行基準における工事原価総額などを信頼性を持って見積れる社内体制にあるかを今一度、再検証するとともに、厳格なルール作りをすることが重要です。そして、「馴れ合い」の組織風土を変え、経営者自らが行う不正を牽制する「仕組み」を構築することこそが、企業の持続的な成長につながり、結果として従業員のモチベーション維持、企業価値の向上につながるのではないでしょうか。