プロジェクト型ビジネスにおける業績管理⑤

皆様の会社では、以下のような課題を抱えていませんか?

・プロジェクト単位での案件情報(契約内容や請求、入金予定など)や損益・収支情報がわからない

・社内リソースのアサイン状況や稼働率をタイムリーに把握できていない

・コスト意識が低い

このような課題を抱えている会社の多くは、共通点があります。

・プロジェクトが複数、同時に進行しており、契約形態も様々である

・プロジェクトの単位に関する社内ルールが曖昧(プロジェクト・コードの採番ルールが決まっていない)

・1つの請求書の中に複数種類の請求項目があり、社内の複数部署が関与している請求がある 等

このように管理の仕方が複雑で、明確な社内のルールが決まっていない会社の多くが、プロジェクト毎の業績管理が実施できておらず、いわゆる「どんぶり勘定」となってしまっているのです。

そこで、今回はプロジェクト毎の個別の業績管理を成功させるための7つのステップについて解説します。業種によって多少、状況が異なる場合もありますが、ここではシステムの受託開発会社のように、プロジェクト毎に仕様が異なり、数ヶ月にまたがって進行するプロジェクトが複数ある会社を例にして説明します。

 

STEP1.プロジェクト・タイプの整理

ITベンチャー企業を例にとると、採算管理で困っている会社の多くは、複数の形態(プロジェクト・タイプ)の業務を行っています。例えば、受託開発といっても、初期開発費用と保守・運用費用という別々の形で請求が行われることもありますし、受注前の提案フェーズでエンジニアが要件定義と基本設計の一部を進めてしまうこともあります。また、R&Dとしての開発などのプロジェクトが進行している会社もあります。精度の高い採算管理を行う上では、このような複数のフェーズ・種類のプロジェクトを整理して、それぞれのプロジェクトとして認識することが重要となります。

企業会計上も受注前のプリセールスに係る費用は販売管理費と認識すべきですし、受託開発業務において検収後に発生した費用はアフターフォロー(瑕疵担保義務の履行)として売上原価又は販売管理費として認識すべきですが、いずれも発生原因となる元のプロジェクトに紐付けてプロジェクトのスタートから終了までを(例えば親プロジェクト・子プロジェクトとして)一元管理することが有益です。

STEP2.セグメントの決定

第4回のブログで事業別損益の把握方法について解説しましたが、プロジェクト別損益は、社内の事業区分など経営者が採算管理したい単位をセグメント化し、各セグメントについて誰が採算の責任を負うかを決定する必要があります。ここでの「セグメント」という表現の意味は、必ずしも社内での組織としの事業部とは一致せず、採算管理を行う上でのプロジェクトの集計単位としての意味で用いることにします。

ポイントは、当該セグメントの事業に関する予算と実績に関する権限・責任を明確にしておくことです。例えば、月次の経営会議等のミーティングにおいて、それぞれの事業やグループのリーダーが活動報告等を行う際、それぞれのセグメント毎の業績に関する報告も合わせて行うようになり、いずれは当該関与している事業に関する一定の予算権限・裁量を持たせるようになると、現場にもコスト意識が芽生え、権限委譲が進み、結果として強い組織へと成長していきます。

STEP3.プロジェクト単位(採算管理の最小単位)の決定

社内にあるプロジェクトタイプの整理と、プロジェクトの集計単位としてのセグメントの方針がなされた後、それらを勘案して採算管理すべき最小単位、すなわちプロジェクト単位に関する社内ルールを決定する必要があります。

ここでのポイントは、プロジェクトタイプ(有償か無償か、検収前か後か、請負契約に基づくものか毎月請求できるものか等)が異なればプロジェクトは分けて管理すべきであること、そして、業績管理をする上で分離して採算を把握したいものがあれば、請求単位にかかわらずプロジェクトを分けて管理すべきという点です。

STEP4.プロジェクト・コード採番ルールの策定

プロジェクト単位が決まったら、それぞれのプロジェクトに管理ナンバー(プロジェクト・コード、案件番号、受注コード等)を採番するルールを策定しましょう。会計ソフトや基幹システム側で自動採番の機能があれば、それを使うのも良いと思います。しかし、手動で管理する場合には、セグメント別やプロジェクトタイプ別に付す記号や番号に意味を持たせ、採番する方法をお勧めします。こうしておけば、その後、業績管理をする際にExcel(表計算ソフト)等を使って集計するのが便利になります。

このプロジェクト・コードの採番にあたっては、既に採番済みの案件に関して継続的に状況確認を続け、すでに失注した案件などを放っておかないことが最大のポイントです。

STEP5.プロジェクト・ステータス区分の決定

プロジェクト・コードの採番ルールが決まれば、プロジェクト毎の採算管理をスタートすることはできますが、よりタイムリーにプロジェクト毎の案件情報を知るためには、各プロジェクトのステータスを常に最新の情報として共有する仕組みが必要となります。

すなわち、受注前の案件であれば受注確度がどの程度の案件なのかをランクA、B、Cなどを使って共有し、受注後であればプロジェクトの進捗を、検収後であれば請求・入金の状況等について、ステータスを各プロジェクトに紐付けて管理していくと、業績管理をより有意義なものとすることができます。

STEP6.共有が必要なドキュメント種類の決定

プロジェクトの数が多くなった場合、案件毎の情報、例えば契約条件や仕様、アサインメントの状況やプロジェクトリーダーに関する情報等をプロジェクトに紐付けて共有しておくと便利です。

もちろん、営業担当者、エンジニア・開発者、管理部門の担当者は、それぞれ必要とする情報が異なります。しかし、プロジェクトという単位で上記のドキュメントを整理し共有する仕組みを創り、少なくともリーダーの方はいつでもこれらを確認できる状態にしておくことが、プロジェクト管理でトラブルを回避するために有効な手段となります。

STEP7.プロジェクト承認ルールの決定

このようにプロジェクト単位毎にコードを採番し、プロジェクト毎のステータスや案件情報を共有する仕組みができたら、それらを承認するワークフローの仕組みを決めておきましょう。受注に関する承認は勿論ですが、それ以外にも、例えば無償で瑕疵対応する場合や受注前の提案フェーズでの作業など、何となく「見切り発車」して想定以上のロスが発生しないよう、社内の承認ルールを決定し、それを徹底することが重要なポイントです。これらの承認プロセスは、株式公開準備会社や上場会社では、内部統制上も重要なプロセスと評価されておりますので、留意が必要です。

このようなステップを経て、プロジェクト毎の業績管理は上手く機能するようになります。

上記の説明で分かるとおり、プロジェクト別損益管理を適切に行うためには、経理部門(管理部門)だけでなく、全社を巻き込んだ取り組みが必要となります。そして、いくら高価なシステム投資をしたとしても、決めるべき社内ルールが適切な手順(社内の合意形成のプロセス)を踏んで策定されない限り、プロジェクト別損益は正しく把握できません。

プロジェクト型ビジネスにおける業績管理④

今回は、事業別損益(実績)をどのように把握すべきかについて述べたいと思います。

皆様の会社では、以下のような課題を抱えていませんか?

・会社の採算管理ができていない

・複数の事業ドメインがあるが、それぞれの事業毎の損益がわからない

・複数の事業に共通して発生するコスト(例えば人件費)をどのように管理すべきかわからない

プロジェクト型ビジネスの企業の多くは、単一のビジネスではなく、複数の形態の売上があります。

一部の事業はプロジェクト単位で採算管理を行い、その他の事業はサービス別や商品・製品郡別に採算管理を行っている会社も多いと思いますが、いずれにしても、プロジェクト単位での業績管理を行う前に、まずは会社全体の損益を売上の種類等の区分に分けて把握する必要があります。

この売上の種類等の区分は、事業別、サービス別、売上種別、セグメント別など様々な呼び方をされますが、要するに経営者が把握したい事業単位毎の損益情報は、経営の意思決定を行う上で重要な情報となります。(以下では、これらをまとめて事業別損益と呼びます。)

この点、売上を種類別に把握することはできても、それぞれの売上に紐付く原価や販売費及び一般管理費を把握することは難しく、事業別損益を正確に把握できている会社は、実は意外と少ないのです。

この事業別損益の把握を難しくしている要因として、原価や販売費及び一般管理費の中に、売上の発生と直接結び付かないコスト(これを間接費と呼びます。)や、会社を存続させるために必要な全社コスト(これを本社費と呼びます。)の存在があります。

つまり、これらのコストを何らかの人為的な基準で各事業別に配賦しなければ事業別損益を把握することは出来ないのです。

ここで、事業別損益の構造を説明するために、下記にサンプルを図示します。

(図表:事業部別損益計算書)

図表2

 

まず、各事業に直接紐付く原価や販売費を変動費(売上の増減に比例して発生するもの)と固定費(売上の増減にかかわらず固定的に発生するもの)に分類して、各事業部毎に集計します。

この時、売上から変動費を差し引いた利益を限界利益と呼び、そこから個別固定費を差し引いた利益を(事業部)貢献利益と呼びます。

上の例では、限界利益がA事業では80(限界利益率40%)、B事業では30(限界利益率30%)ですので、A事業のほうが利益率の高い事業であることがわかります。

また、事業毎に区別できる固定費を差し引いた貢献利益は、A事業が70、B事業が20となっていますが、これは、共通固定費を配賦する前の事業別の利益を表す指標であり、本社費配賦額を回収するための利益を意味します。

B事業については、本社費配賦後は△10の赤字となっておりますが、共通固定費(本社費)を配賦する前の貢献利益がプラスであることから、B事業も会社全体の利益には貢献しており、その事業からは撤退すべきではないことが解かります。

実務上は、各売上に直接紐付かない間接費をどのような配賦基準に基づき配賦していくか、また、原価に区分される労務費を各事業別(プロジェクト別)にどのように按分していくかを予め決定しておくことが必要となります。

また、どの費目までを各事業に紐付く費用をするか(つまり個別固定費とするか)で議論になることが多いですが、「各事業においてコントロール可能な費用か否か」という点が一つの判断基準になります。

本社費等の共通固定費は、事業別の売上高や人数等の比率に応じて各事業に配賦するのが一般的ですが、この按分基準は恣意的なものであることから共通固定費控除後の利益額はあまり重要な意味を持たず、実務上は各事業別の貢献利益を主要な経営指標(KPI)として業績管理が行われます。

以上のように、事業別損益を把握するにあたっては、労務費の按分基準、製造間接費の配賦基準、部門共通費(本社費)の配賦基準をそれぞれ決定し、按分計算・配賦計算を行うことが必要となります。

各事業のコスト構造を把握し、それに適合した按分基準・配賦基準に関するルールづくりを行うことが部門別損益計算を精緻に行う上でのカギとなります。