決算・財務報告プロセスにおける内部統制③――不適切会計の事例に学ぶ内部統制の重要性(A社)

このコラムでは、実際に起きた不適切会計の事例を紹介し、それぞれの事例での内部統制上の問題点を検証し、決算・財務報告プロセスで経理部門が果たすべき役割について考えてみたいと思います。

A社の事例

【収益認識基準】

従来から監査法人に機械装置の売上取引に係る検収の事実が不明確であるとの指摘を受けていたことから、機械装置の売上取引に際しては、顧客との間で「商品売買契約書」及び「検収確認書兼受領書」を取り交わすこととし、当該受領書に基づき検収基準で収益を認識していた。

【不適切会計の事実】

顧客は検収時点で当該受領書に押印等を行なっていたのではなく、当社から依頼をして押印等をしてもらっていた。すなわち、本来、検収を表すべき証憑が適切に運用されず形骸化し、出荷基準での売上計上が続いていた。

【内部統制上の問題点】

機械装置をエンドユーザーの施設内に設置する際に、作業報告書を作成していた。ところが、この書類は会計記録に係る証憑書類として位置づけられていなかったことから、設置完了前の時点で売上計上されてしまっていた。

決算・財務報告プロセスにおける内部統制構築のポイント

第三者委員会の報告書でも指摘があるとおり、設置完了日が明らかとなる証憑があったにも関わらず、それを会計記録に関する証憑書類として扱っていなかったため、受領証との照合などが行なわれなかった点、すなわち売上計上の承認を行なうという統制手続きのデザイン(内部統制の整備状況)自体に問題があったといえます。

正しい証憑を用いて照合手続きを行い、売上の計上時期の妥当性を検証するプロセスがあれば、そもそもこうした偽装は起こらなかったかもしれません。また、おそらくこの会社を担当していた監査法人も重要な取引先に対する残高確認は行なっていたと思いますが、経理部門の方でもこの顧客に対して期末の売掛金に対する残高確認を行い、本来ズレる筈のない、この機械装置に係る債務認識について差異が発生していることが判明し、かつ、その原因追及までできていれば、不正の発生を食い止めることができたかもしれません。また、売掛金の年齢調べを行なう際、この顧客からの入金サイトが通常のサイクルより長いといった事態が見つかっていたかもしれません。

このように、経理部門、管理部門が主体となって行なうことができる内部統制の手続きは様々なものがあり、これらの手続きが有効に機能していれば、売上責任を負っている販売部門や事業部の不正を発覚できる可能性もあったと思います。

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決算・財務報告プロセスにおける内部統制①――決算・財務報告プロセスにおける内部統制の重要性と課題

決算・財務報告プロセスにおける内部統制の重要性

2008年より始まった「内部統制報告書」制度ですが、未だ内部統制の整備・運用状況が十分でない上場企業・上場準備企業が多いです。

J-SOX実務上は、どうしても業務プロセスのドキュメント作り(販売や購買などの業務記述書やフローチャート等の作成業務)やその有効性評価手続きの業務に担当者が追われてしまいがちです。しかし、肝心なのは、これらの業務プロセスではありません。「会社の属する企業集団および当該会社に係る財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するために必要な体制」を構築・評価するというJ-SOXの本来の趣旨から考えると、「各業務プロセスにおける内部統制」の有効性よりも、「決算・財務報告プロセスにおける内部統制」の有効性を検証することこそが、虚偽記載や財務報告上の誤りを是正する上で最も重要だと言われています。

なぜなら、販売や購買、人件費計上といった上流工程の内部統制が如何に有効に機能していたとしても、川下の工程である決算・財務報告プロセスの内部統制に不備があれば、財務諸表作成や開示書類作成の過程で、虚偽記載がなされてしまう可能性が大いにあるからです。一方、上流工程の内部統制に不備があっても、入出金管理による消し込みや残高確認等、経理部門で行なわれるチェックを通じて、虚偽記載の原因となる事象を発見でき、回避することも可能だからです。

また、最近の不適切開示の事例を見ても、決算・財務報告プロセスにおける内部統制が有効に機能していないことが要因で不適切開示が発生し、後日、内部統制報告書の訂正により「開示すべき重要な不備」を開示している事例が頻発しています。このことからも、決算・財務報告プロセスにおける内部統制が、J-SOXの趣旨に照らし、いかに重要であるかが伺えます。

内部統制上の課題

上場企業における開示実務担当者は、IFRS(国際財務報告基準)の本格適用をにらんだ毎年の法令改正等をキャッチアップしながら、期限内に書類を提出しなければならず、その負担は年々増加しております。また、決算・開示に必要な専門知識が年々高度化し、当該専門知識を有する人材が不足している等の背景から、決算・開示に係る業務が特定のキーマンに集中し、長年の実務の積み重ねで作り上げた独特なエクセルシートのフォーマットが生まれるなど、担当業務が属人的になる傾向があります。

その結果、以下のような課題を抱える上場企業・上場準備企業が依然として多く、当社では、これらに関する内部統制構築支援の相談を頂くケースもあります。

  • 決算や開示書類作成に必要な業務マニュアル等が存在しない
  • 決算業務に係る業務記述書が暫く更新されていない
  • 決算整理仕訳のチェックや注記事項、開示書類のチェック体制が不十分

そこで、本コラムでは、上場会社や上場準備会社のCFO、経理・開示実務担当者の方々を対象に、決算・財務報告プロセスにおける内部統制やチェックの仕組みを構築する上で留意すべきポイントや、属人化を排除し業務の可視化を推進するためのノウハウ等をご紹介して参ります。

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