失敗しない訂正報告書の作成実務⑤

訂正報告書を提出する場合、EDINET提出書類としての有価証券報告書(四半期報告書)の訂正報告書と、TDnet開示書類としての訂正決算短信(四半期決算短信)をそれぞれ提出する必要があることは前回のコラムで説明しました。このコラムでは、それぞれの訂正報告書のフォーマット、開示方法について解説します。

訂正報告書それぞれの訂正箇所の開示方法の仕方としては、大きく分けると以下の2つのパターンに分類できます。開示方法について

まずEDINET提出書類としての訂正有価証券報告書(訂正四半期報告書)を作成するにあたっては、①有価証券報告書の訂正報告書の訂正理由、②訂正事項、③訂正箇所について記載する必要があります。サンプル・ひな型は次の通りです。有価証券報告書の訂正報告書サンプル

このサンプルの3【訂正箇所】の記載方法のように、訂正箇所が書類全体に及ぶケースの場合には、「訂正前」・「訂正後」の開示に変えて、「訂正後のみ全文」の開示も認められています。過去の財務諸表等の修正が必要で財務諸表本表、主要な経営指標等の訂正が必要なケースでは、上記のサンプルのような記載方法を採用する方が実務上の作業負担軽減に繋がると思いますので、参考としてください。

次にTDnet開示書類としての訂正決算短信(訂正四半期決算短信)の作成についてですが、数値データに修正がある場合には、①訂正の内容、②訂正の理由を記載するとともに訂正後の数値データの提出も必要となります。以下は、数値データの訂正があるケースの東証の「決算短信・四半期決算短信 記載要領等(2015年1月)」のひな型の抜粋です(P.10より引用)。

訂正の内容の開示方法は、訂正箇所のみ「訂正前」・「訂正後」の順で開示する方法の他、全体に訂正箇所が及ぶ場合には、「訂正後全文」・「訂正前全文」開示を行っている例が多いようです。訂正後のみ全文記載で開示された事例はわずか(倉敷紡績様、イワキ株式会社様)にしかなく、基本的には順番の前後を問わず、訂正前と訂正後の双方の開示が必要とされますので、ご留意下さい。

このように、EDINET提出書類としての有価証券報告書の訂正報告書と、TDnet開示書類としての訂正決算短信の記載内容は類似しておりますが、特に訂正箇所が全体に及ぶ場合の記載方法につき、財務局と東証でわずかながら違いがあります。したがって、事前にフォーマットの確認を行っておくとともに、訂正箇所が多岐に及ぶ場合には、訂正箇所の範囲が決まった時点で開示方法についても財務局・東証に事前に確認を採ってから、訂正報告書の原稿作成を始めることをお勧めします。

失敗しない訂正報告書の作成実務②

株式会社東芝の2014年度の決算日は、2015年3月31日。ですが、第三者委員会による不適切な会計処理等の指摘を受け、決算数値の確定をすることができず、2度に渡り関東財務局長から提出期限延長の承認を受け、2015年9月7日にようやく有価証券報告書が提出されました。これは、法律で決まっている本来の提出期限を大幅に超えてしまっています。

今回は、この有価証券報告書の提出期限と、延長申請のルールについて解説します。

有価証券報告書の提出期限は、金融商品取引法第24条第1項に記載があります。

”第二十四条  有価証券の発行者である会社は、・・中略・・内閣府令で定めるところにより、事業年度ごとに、当該会社の商号、当該会社の属する企業集団及び当該会社の経理の状況その他事業の内容に関する重要な事項その他の公益又は投資者保護のため必要かつ適当なものとして内閣府令で定める事項を記載した報告書(以下「有価証券報告書」という。)を、内国会社にあつては当該事業年度経過後三月以内(やむを得ない理由により当該期間内に提出できないと認められる場合には、内閣府令で定めるところにより、あらかじめ内閣総理大臣の承認を受けた期間内)・・中略・・に、内閣総理大臣に提出しなければならない。・・後略・・”

このように、有価証券報告書は、決算日後、3か月以内に提出しなければならないのが本来の提出期限です。しかし、「やむを得ない理由により当該期間内に提出できないと認められる場合」には、期間の延長を申請して承認を受けることになっています。

「やむを得ない理由」は、企業内容等開示ガイドライン24-13(1)で例示されています。

① 電力の供給が断たれた場合その他の理由により、当該発行者の使用に係る電子計算機を稼動させることができないことによる債務未確定等を理由として、提出期限までに財務諸表又は連結財務諸表の作成が完了せず、又は監査報告書を受領できない場合

② 民事再生法に基づく再生手続開始の申立てによる債務未確定等を理由として、提出期限までに財務諸表又は連結財務諸表の作成が完了せず、又は監査報告書を受領できない場合

③ 過去に提出した有価証券報告書等のうちに重要な事項について虚偽の記載が発見され、当事業年度若しくは当連結会計年度の期首残高等を確定するために必要な過年度の財務諸表若しくは連結財務諸表の訂正が提出期限までに完了せず、又は監査報告書を受領できない場合であって、発行者がその旨を公表している場合

④ 監査法人等による監査により当該発行者の財務諸表又は連結財務諸表に重要な虚偽の表示が生じる可能性のある誤謬又は不正による重要な虚偽の表示の疑義が識別されるなど、当該監査法人等による追加的な監査手続が必要なため、提出期限までに監査報告書を受領できない場合であって、発行者がその旨を公表している場合

⑤ 法第24条第1項各号に掲げる有価証券の発行者が外国の者である場合であって、当該者の本国の計算等に関する法令又は慣行行等により提出期限までに有価証券報告書を提出することができない場合

つまり、提出期限の延長が認められるのは、過去に提出した有価証券報告書等のうちに重要な事項について虚偽の記載が発見され、財務諸表若しくは連結財務諸表の修正が提出期限までに完了できない場合、又は監査法人等による追加的な監査手続きが必要なため、提出期限までに監査報告書を受領できない場合等に限られています。これ以外のケースでは、延長の申請があっても承認されず、期限を守れない場合には、罰金や上場廃止(1ヶ月を超えて遅れる場合等)などのペナルティが科される場合があります。

期間の延長がどのくらい認められるかについては、明確な基準は設けられていませんが、東芝のように2ヶ月以上に渡って延長が認められるケースは稀で、通常、1ヶ月程度、延長が認められているケースが多いです。

また、有価証券報告書の提出期限延長の承認の手続きは、開示府令第15条の2第1項に記載されており、具体的には以下の記載が必要となります。

(1)  当該有価証券報告書の提出に関して当該承認を受けようとする期間

(2)  当該有価証券報告書に係る事業年度終了の日

(3)  当該有価証券報告書の提出に関して当該承認を必要とする理由

(4)  延長申請による承認を受けた場合及び(3)に規定する理由について消滅又は変更があつた場合に直ちにその旨を多数の者が知り得る状態に置くための方法

さらに、申請書類には以下の書類を添付しなければならないものとされています(開示府令第15条の2第2項)。

①定款又はこれに準ずるもの

②前記(3)に規定する理由を証する書面

これらの書類提出の準備、財務局や東京証券取引所への確認・状況報告、TDnet上での適時開示、監査法人との調整等々、提出書類の期限延長の手続きを行うに当たっては、やらなければならないことが沢山あります。万が一の事態に備え、今回ご紹介した開示ルール等をチェックしておくことをお勧めします。

失敗しない訂正報告書の作成実務①

当社では、昨年ぐらいから、訂正報告書の作成について実務の相談を受けることが多くなり、訂正報告書の作成支援を請け負うケースも増えてまいりました。その背景を調べてみたところ、不適切開示の件数がここ数年、増加傾向にあることがわかりました。

東京証券取引所では、適時適切な開示に対する上場会社の意識向上を図る観点から、2003年5月より毎月、不適切な開示に対する注意件数について公表しています。2015年度(2015年4月~2016年3月)の注意件数は、調査開始以来、過去最多となる309件を記録しました(東京証券取引所調べ、但し現物市場統合前の大阪証券取引所における不適正な開示については含まず)。

不適切件数

日本取引所グループ公表資料を基に当社で集計、表作成

同様に、東京商工リサーチの調べによれば、2015年度に「不適切な会計・経理」を開示した上場企業は58社で、2007年4月の調査開始から年度ベースで最多を記録したそうです。

東京商工リサーチ調べ

調査結果によると、具体的な内容では、「誤り」など単純なミス以外に、「着服」、「業績や営業ノルマ達成を動機とする架空売上」、「循環取引」など、コンプライアンス意識の欠落や業績低迷を糊塗した要因が多かったようです。

訂正報告書の作成実務に関しては、これまで経験したことのある実務担当者は極めて稀です。加えて、訂正報告書の開示書類作成に関して体系的に実務手順を解説している文献がほとんど存在せず、実務研修等のセミナーも多くありません。ですから、いざ、連結財務諸表等の遡及修正をして訂正報告書を作成しなければならない事態が生じると、多くの上場会社では、これまで経験したことがない実務に困惑し、焦燥に駆られ、不眠不休の対応を迫られる・・・といった状況に陥ります。

そこで、本ブログを通じて、上場会社のCFO、経理・開示実務担当者の方々を対象に、訂正報告書を作成する上で参考になるであろう話をお伝えしてまいります。

不適切会計とガバナンス

先日、東芝の会計不祥事を巡り、証券取引等監視委員会は行政処分として、月内(2015年11月中)にも同社に課徴金を科すよう金融庁に勧告するとの報道がなされました。課徴金は70億円を超え過去最高額となる見通しです。今回は、このニュースに関連して、不適切会計に関しての私見を述べたいと思います。

東芝に限らず、不適切な会計処理をしていたことが第三者委員会の調査等で発覚し、決算を遡及して修正している上場企業は、近年、増えております。これら訂正報告書を提出している上場企業の内部統制報告書を閲覧すると、ほとんどの会社において、その対象期において内部統制上の不備はなかったとの報告書が提出されていました。にもかかわらず、不適切会計に起因する財務諸表の虚偽記載が行われるケースが後を絶ちません。

いったい、何故、東芝のように革新的なコーポレートガバナンス体制を採っているとされている企業でさえ、このような不祥事が発生してしまうのでしょうか?

2015年7月20日に公表されました同社の第三者委員会の調査報告書によれば、工事進行基準案件に係る会計処理等において不適切な会計処理が行われていることが判明したとのことです。その背景として、事業戦略上の必要性から入札に勝つために、具体的な裏付けのないコスト削減策が含まれた工事原価総額が使用され、あるいは、受注後の仕様変更等により追加工事が発生したにもかかわらず、正式な注文書を発行せず、減額交渉を行っていること等を理由に見積工事原価総額に含めないなどして、工事原価総額を過少に見積られていたと報告されました。また、契約受注時点から赤字が見込まれていた案件や工事期間中に赤字になる可能性が高まった案件についても、トップダウンの指示や予算目標必達のプレッシャー等を背景に、引当金の計上を回避し、損失計上の先送りが行われたようです。

他の不適切会計の事例を調べても、東芝のケースのように、形式的には、各事業部から独立した管理部門や内部監査部門など牽制機能を発揮するように組織は整備されているものの、実質的には、機能不全に陥っているケースは多いようです。すなわち、各事業部の責任者が承認しなければ引当金の計上や工事原価総額の修正を行うことはできない組織風土になっていて、経営者による不正リスクに対する内部統制が機能していないということです。東芝の会計不祥事の発生経緯も、まさにこの機能不全が原因であったと調査報告書には記載されています。

そして、その根幹には、日本企業特有の「馴れ合い」によるガバナンスが行われているという実態があると私は思います。経営陣が短期的な業績にこだわる背景には、社内の出世・派閥争いや財界での地位への執着等があり、周囲の人間は皆それらの事情を知っています。ですから、暗黙の了解のもと、無理な決算が組まれ、それが是正されずに決算発表されてしまうという構図が生まれるのです。

企業業績の実態が歪められて株主・投資家に伝えられることのないよう、受注損失引当金や工事進行基準における工事原価総額などを信頼性を持って見積れる社内体制にあるかを今一度、再検証するとともに、厳格なルール作りをすることが重要です。そして、「馴れ合い」の組織風土を変え、経営者自らが行う不正を牽制する「仕組み」を構築することこそが、企業の持続的な成長につながり、結果として従業員のモチベーション維持、企業価値の向上につながるのではないでしょうか。