業務属人化からの脱却方法⑤-属人化しない 『仕組み』を創るための3つのポイント

本稿では、開示業務がブラックボックス化しないための「仕組み」を創るうえでのポイントを3つ紹介します。

①開示項目との紐付け

まず、開示書類の作成過程の見える化を図るために是非行っていただきたいのが、開示項目と基礎資料の紐付け作業になります。
開示書類の各開示項目とそれらを記載するために作成・集計した基礎資料との関連性を明らかにし、開示書類の作成過程の「見える化」を行うことが、業務の引継ぎを行う際や、進捗を管理する上でも重要です。

当社で開示書類作成アウトソーシングのサービスを提供しているお客様については、開示書類作成の根拠となる資料を一覧表に纏め、それぞれの基礎資料が法定開示書類(短信、有価証券報告書・四半期報告書、計算書類等)のどれに使用しているかを整理します。その上で、開示項目の目次単位で、基礎資料との紐付け作業を行ない、その管理表に基づいて、開示項目の整理と進捗管理等を行っております。作成プロセスを可視化することは、内部統制上も重要です。

②基礎資料の標準化

次に、基礎資料、開示根拠資料等の標準化です。「自分にしか読み解けない資料」「作成過程を解読することが困難なスプレッドシート」が存在すると、それを引継ぐことや、第三者がチェックするのは難しく、その結果、誤謬リスクにつながりかねません。

ですから、第三者がみても容易にチェックやトレースができ、基礎資料から開示書類への転記ミスが起こり難いようなフォームを採用することが重要となります。

例えば、税効果関係や金融商品関係の注記を作成する場合、スプレッドシート上で、開示書類に転記する最終結果を開示する単位(例えば、千円)で作成しておくと転記ミスを減らすことができます。また、開示根拠資料となるスプレッドシートに余計な情報を入れすぎないように留意すべきです。様々なブックとのリンクを貼ったり、難しい関数を駆使してデータ連携をさせるのも避けるべきです。作成した本人にしか解読できず、引継ぎの際に苦労しますので、注意しましょう。

③チェックリストの活用

最後は、チェックリストの活用です。

ベテランの担当者が部署異動等で担当替になると、途端にクオリティーが下がり、監査法人から様々なミス・不整合の指摘が増えるというケースがあります。これは、経験不足が原因なので、ある程度はやむを得ないことだですが、内部統制上は、やはり監査法人頼みにするのではなく自社でチェックできる体制を築くべきです。ですから、ベテランの属人的なチェックに頼ることなく品質を維持するために、チェックリストの活用はとても重要になります。

開示書類の漏れや記載誤りを自社のメンバーで発見でき、その品質を維持するために、チェックリストの導入・活用を是非ご検討頂きたいと思います。

以上、3つのポイント各々について自社の体制を見直し、開示業務の属人化を解消する糸口を探して頂きたいと思います。

決算・財務報告プロセスにおける内部統制⑥――不適切会計の事例に学ぶ内部統制の重要性(まとめ)

前回までのコラムで御紹介した不適切会計の事例からもわかる通り、売上の過大計上や、工事原価の過少見積などは、販売プロセスや購買プロセス、生産プロセスなどの各業務プロセスで起こる場合が多いです。しかし、業績に対する過度なプレッシャーなどが背景にありますので、単に関連部署の上長による承認といった内部統制だけでは機能しないことがあります。また、B社C社の事例のように経理部門において行なわれる決算整理仕訳のうち、例えば経過勘定に関するものや工事進行基準のように会計上の見積もりを伴う仕訳に対して、社長や経営者の指示で恣意的な操作が行われる場合もありますので、単に経理部長の承認だけでは内部統制として不十分な場合もあります。

しかし、A社の事例のように、仮に決算・財務報告プロセスにおける内部統制の整備を検討する上で、先方の検収が行なわれた日付が明確でない受領書だけをチェックするのではなく、実際に設置作業か完了した日付を証明するために作業報告書までチェックしていたら、事態が早期に発覚し、不適切会計が行なわれるのを防げたかもしれません。残高確認も、収益・費用の認識時点を取引先と確認するうえで重要な手続きですから、監査法人任せにするのではなく、重要な内部統制手続きの一貫として、期末に限らず定期的に行なっていたら、債権債務認識の不一致が早期に発見でき、自社内で行なわれている不適切な操作に早めに気付くことができたかもしれません。

ですから、下記の図にあります①に記載のとおり、決算時の統制手続き(例えば、残高確認や入金確認・年齢調べ、収益や費用の認識時期に関するカットオフテストの実行など)により、各業務プロセスの誤謬のみならず、場合によっては不正までも未然に発見できる可能性があるわけです。そして、②に記載のとおり、決算財務報告プロセス内で行なわれる決算整理仕訳や連結範囲の検討、関連当事者との取引把握は、虚偽記載の事例が非常に多い分野ですので、特に内部統制の整備に関して有効に機能するデザインとなっているか、慎重に検討する必要があります。

是非、決算・財務報告プロセスにおいて、経理部門の方々が果たすべき内部統制の役割の重要性をご理解頂き、財務諸表の虚偽記載や不適切会計が行なわれない体制、仕組みを十分に検討頂きたいと思います。

不適切会計事例に学ぶ内部統制の重要性