HARD THINGSに学ぶ難題への対処法

「HARD THINGS:答えがない難題と困難にきみはどう立ち向かうか」は、著者であるベン・ホロウィッツが「困難を経験してきた者のみが得られる教訓もあるし、それに基づいた有益な助言もある」と考えて書かれたものであり、CEOに限らず、事業責任者やマネージャーがマネジメントで困難な課題に直面した際、とても参考になる一冊です。

ホロウィッツは、「平時のCEOと戦時のCEO」という節で、以下のように言っています。

「平時と戦時とでは、根本的に異なる経営スタイルを必要とすることを私は経験から学んだ。」・・・「平時のCEOは会社が現在持っている優位性をもっとも効果的に利用し、それをさらに拡大することが任務だ。そのため、平時のリーダーは部下からできる限り幅広く創造性を引き出し、多様な可能性を探ることが必要となる。しかし戦時のCEOの任務はこれと逆だ。会社にすでに弾丸が一発しか残っていない状況では、その一発に必中を期するしかない。戦時には社員が任務を死守し、厳格に遂行できるかどうかに会社の生き残りがかかることになる。」

確かに、スティーブ・ジョブスがアップルに復帰したときはまさに「戦時」と言うに相応しい時期でした。社員一人一人の創造性よりも、ジョブスの強烈なリーダーシップが会社を窮地から救ったのだと思います。一方、検索市場で覇権を確立したあとのグーグルは、イノベーションを起こすための組織風土創りを行い、世界から注目を集めました。このような戦略は「平時」にこそ有効なのだと思います。

これまでの経営書は、平時のCEO向けの内容が多かったので、私は、「本当に知りたいのはそこじゃないんだ」と思うことが良くありましたが、本書のような切り口は実に新鮮で腑に落ちます。

そして、本書では、こうも言っています。

「困難なことの中でももっとも困難なことには、一般に適用できるマニュアルなんてない」

「会社が本当の危機に直面したときにはレモネードのスタンドも経営したことがないような評論家の経営書など何の役にも立たない」

真に、これが現実です。内情を知らない第三者はとかく独裁的なCEOを「ブラック企業のボス」呼ばわりしますが、本書は容赦ない独裁者だけが会社を救える場合があることを具体例で示してくれており、勇気を与えてくれます。ただし、「正しい野心と間違った野心」の節でも述べられているとおり、こうした「戦時」の独裁はあくまで会社を救うことが目的であって、自分のエゴのためであってはいけません。この点を頭の中で整理できたことが、私にとっては最大の教訓となりました。

事業のスタートアップ期は、計画通りに物事が進まないのが当り前であり、経営方針や戦略は変わることも多いと思います。このような岐路に立たされた際に困難な課題に目を背けることなく、自分が正しいと思う判断や意思決定を下すとき、この本は読者にとって大きな勇気を与えてくれます。

 

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