業務属人化からの脱却方法⑥-まとめ

これまで5回に渡り、開示業務の属人化を解消するための方法について解説してまいりました。そのポイントを纏めると、以下の通りとなります。

  • 法定開示書類の作成実務は、その業務の性質上、属人的な業務になりやすい傾向があります。
  • 業務属人化を放っておくと、開示遅延リスク退職リスク不正リスク等につながる可能性がありますので、継続開示義務を負っている上場会社としては、対策を講じる必要があります。
  • 業務属人化を解消するためには、①複数の担当者が同じ業務をできる体制とし、②担当業務及び開示書類作成過程の「見える化」「標準化」を行い、③これらが継続して運用される「仕組み」をつくる必要があります。
  • 業務属人化を解消し、ブラックボックス化しない「仕組み」を創るには、①開示項目と基礎資料との紐付けを行い、開示書類作成過程の「見える化」を行うこと、②基礎資料の「標準化」を行い、誰が見ても分かりやすい作り方とすること、③開示チェックリスト等を活用し、誰が開示書類を作成しても品質を維持できる「仕組み」とすることがポイントです。
  • 「仕組み」を維持し業務を定着化させる為には、業務マニュアル等の活用が効果的です。

業務属人化を解消するための方法

このように、開示書類作成過程の「見える化」「標準化」を行い、チェックリスト等を活用して担当者のレベルアップを図ることで、開示業務の分担や引継ぎを推し進め、複数の担当者が同じ業務をできる体制にすることが可能となります。その結果、業務属人化リスクを軽減することにもつながるわけです。

是非、皆様方の会社でも、開示業務の「見える化」「標準化」を図り、複数の担当者が同じ業務をできる体制を目指しましょう。

業務属人化からの脱却方法⑤-属人化しない 『仕組み』を創るための3つのポイント

本稿では、開示業務がブラックボックス化しないための「仕組み」を創るうえでのポイントを3つ紹介します。

①開示項目との紐付け

まず、開示書類の作成過程の見える化を図るために是非行っていただきたいのが、開示項目と基礎資料の紐付け作業になります。
開示書類の各開示項目とそれらを記載するために作成・集計した基礎資料との関連性を明らかにし、開示書類の作成過程の「見える化」を行うことが、業務の引継ぎを行う際や、進捗を管理する上でも重要です。

当社で開示書類作成アウトソーシングのサービスを提供しているお客様については、開示書類作成の根拠となる資料を一覧表に纏め、それぞれの基礎資料が法定開示書類(短信、有価証券報告書・四半期報告書、計算書類等)のどれに使用しているかを整理します。その上で、開示項目の目次単位で、基礎資料との紐付け作業を行ない、その管理表に基づいて、開示項目の整理と進捗管理等を行っております。作成プロセスを可視化することは、内部統制上も重要です。

②基礎資料の標準化

次に、基礎資料、開示根拠資料等の標準化です。「自分にしか読み解けない資料」「作成過程を解読することが困難なスプレッドシート」が存在すると、それを引継ぐことや、第三者がチェックするのは難しく、その結果、誤謬リスクにつながりかねません。

ですから、第三者がみても容易にチェックやトレースができ、基礎資料から開示書類への転記ミスが起こり難いようなフォームを採用することが重要となります。

例えば、税効果関係や金融商品関係の注記を作成する場合、スプレッドシート上で、開示書類に転記する最終結果を開示する単位(例えば、千円)で作成しておくと転記ミスを減らすことができます。また、開示根拠資料となるスプレッドシートに余計な情報を入れすぎないように留意すべきです。様々なブックとのリンクを貼ったり、難しい関数を駆使してデータ連携をさせるのも避けるべきです。作成した本人にしか解読できず、引継ぎの際に苦労しますので、注意しましょう。

③チェックリストの活用

最後は、チェックリストの活用です。

ベテランの担当者が部署異動等で担当替になると、途端にクオリティーが下がり、監査法人から様々なミス・不整合の指摘が増えるというケースがあります。これは、経験不足が原因なので、ある程度はやむを得ないことだですが、内部統制上は、やはり監査法人頼みにするのではなく自社でチェックできる体制を築くべきです。ですから、ベテランの属人的なチェックに頼ることなく品質を維持するために、チェックリストの活用はとても重要になります。

開示書類の漏れや記載誤りを自社のメンバーで発見でき、その品質を維持するために、チェックリストの導入・活用を是非ご検討頂きたいと思います。

以上、3つのポイント各々について自社の体制を見直し、開示業務の属人化を解消する糸口を探して頂きたいと思います。

業務属人化からの脱却方法④-属人化を解消する3つの要件

今回のコラムから、法定開示書類作成実務における業務属人化を解消する方法について解説します。

属人化を解消するには、以下の3つの要件を満たす必要があります。

複数の担当者が同じ業務をできるようにしておくこと

②担当業務及び開示書類作成過程の見える化標準化を図ること

③これらが継続して運用されるための『仕組み』をつくること

人数に余裕があれば、複数の担当者が同じ業務をできる体制を築くことで業務属人化の解消を図っていくということが可能となります。

ですが、いくら複数の担当者が同じ業務を担当していても、従前どおり会社独自の方法、第三者からは分かり難い方法で実務を行っていたら、前回のコラムで紹介した属人化により生じるリスクの全てを解消することにはなりません。

開示業務の担当者が何をどのように作成しているのか、プロセスを明確にすることで、他の者が業務を引き継ぎやすくなります。また、誰でも同じ業務ができるようプロセスの標準化を図ることが重要となります。

そして、これらの体制を維持するためには開示業務作成プロセスにおける標準化の『仕組み』を創ることが何より重要となります。

いくら業務プロセスをマニュアル化し見える化できたとしても、それらを活用して、体制を継続できるための『仕組み』を作らなければ、長続きせず、結局、以前の様な属人的な業務に戻ってしまう可能性があるからです。

次回のコラムからは、この『仕組み』をどのように創っていくかについて解説します。

業務属人化からの脱却方法③-業務属人化がもたらすリスク

今回は、法定開示書類作成実務における業務属人化のリスクについて解説します。

『開示実務ができるキーマンがいて、それで実務が回っていれば特に問題ないではないか?』と考えられる方もいらっしゃると思います。この業務属人化という状況を放っておくとどのような事態を招くのかについて、当社で提案に伺った際に伺った実話をもとに、いくつかの事例を紹介します。

ケース1:誰とも業務を共有しないまま、経理部長が突然退社

上場申請書類の作成から上場後の開示書類の作成まで取り纏め役として、開示書類の大部分に関わってこられた方が急遽退社され、過去に作成した開示根拠資料がどこにあるか、どのように集計・作成されていたかなどの引継ぎが十分になされなかったそうです。後を託された方が対応に困り、弊社へ相談が持ち込まれました。
この会社では開示の実務経験者の採用も行われておりましたが、良い方が直ぐには見つからず困っておられました。
このようなケースが生じると何が問題となるかというと、まずは過去の注記や書類の作成プロセスを十分に理解しないまま本決算対応をすることになり、当然、過去のやり方・考え方と違うポリシーで作成してしまう、あるいは、情報不足で誤った数字を拾ってしまうなどの誤謬発生リスクが高まります。
また、このお客様のケースでは何とか予定通りに決算発表、法定開示書類の提出が間に合いましたが、場合によっては開示書類提出の遅延、つまり開示遅延リスクを招くことにもなりかねません。
さらに、急いで採用を決定してしまうと、採用のミスマッチが生じるなど、採用リスクも高まることにつながります。
この様に、キーマンが突然退社されると、様々なリスクが生じます。

ケース2:担当者が産休のため、1年間休職することが決定

この会社では、開示システムへの入力業務を担当されていた方が産休に入られることとなり、その結果、開示書類の作成、入力ができる担当者が一次的に不在になるという事態になりました。
産後、復職された後はこれまで通りの体制に戻る予定であったため、一時的なリソース不足を補うため、弊社にアウトソーシングのご相談がございました。
この様なケースでは、リソースの補充という手段が採れない限り、上長や同僚の業務負荷が高まり、長時間労働での対応を余儀なくされる事態も想定されます。そうなりますと、体調を崩すなどの労務リスクや、場合によっては疲労やストレスが原因で退職してしまうという事態(退職リスク)を招きかねません。

ケース3:管理部門責任者が連結決算から開示まで1人で担当

この会社では、管理部門責任者による会社資金の私的流用、着服が発覚し、責任者の方が解雇されました。
これまで連結決算から開示までこの方が1人で対応され、引継ぎ資料やマニュアルなどが存在しなかった為に、これまでの作成プロセスを紐解くだけで相当の時間がかかってしまったそうです。そこで、決算発表が期日に間に合わなくなるリスクを回避するため、弊社で開示書類の作成部分を支援することとなりました。
この会社のように、特定のキーマンに業務が集中し、それをチェックする人がいない状況を作ってしまうと、このケースのように不正リスクに繋がりかねないので、ガバナンスの観点からも業務分担とその統制には十分な留意が必要となります。

 

これら3ケースは、上場会社において実際に起きた事例です。

確かに、業務の属人化が起きてしまっていたとしても直ぐには困らないかもしれませんが、ここで紹介したリスクを考えると、上場会社として継続開示義務を負っている以上は、何らかの対策を検討しなければなりません。

次回のコラムから、属人化を解消する方法について解説します。

業務属人化からの脱却方法②-開示書類作成業務が属人化する背景

今回は、開示書類作成実務が特定の人に業務が偏り、属人化してしまうのは何故なのか、その背景を整理してみたいと思います。

大きく分けて3つの側面が原因として挙げられます。

業務属人化の発生原因

1.『開示書類の作成実務に求められるスキル』について

①開示書類の作成は、開示ガイドラインや務諸表等規則等、様々なルールに基づいて作成しなければならないので、その開示ルールに関するある程度の知識が求められます。

②加えて、最近では毎年のように頻繁に開示ルールや様式の改定が行われておりますので、最新情報のキャッチ・アップをするだけでも相当の労力を必要とします。ですから、他の職種と比べ、専門性が必要とされる業務であると言えると思います。

大手企業の場合、人事戦略の一貫として、JOBローテーションによる定期的な部署異動を行っている会社もありますが、この開示業務という領域だけは、専門性が高い領域なので、ローテーションに組入れるのは難しく、その結果、毎年、同じ方が担当せざるを得ない状況が生まれてしまっていると考えられます。

2.『組織における課題』について

③ただでさえ開示書類の作成をできる人が限られ、しかも、毎年のルール改正のキャッチ・アップに追われている忙しい方が担当していますので、人を育成する時間なんて採れない、あるいは、④引継ぎ資料やマニュアルなんて作っている時間的な余裕はない、という声を良く耳にします。

つい先日、お伺した上場企業の経理部の課長の方から聞いた話をご紹介します。その会社では、連結パッケージのフォームが子会社の実態にそぐわなくなっているので、フォームの見直しを検討したいけど、その時間が採れない。 その結果、どうしているかというと、個別に情報を拾ってパッケージとは別にエクセルで集計し直しており、その作業のために決算に時間が掛かってしまっているし、後から修正が入ることも多いそうです。また、そのエクセルも第三者が見てわかるように綺麗には作っていないので、その集計作業を誰かに引き継ぐことも難しいと仰っていました。

つまり、業務の標準化が出来ていないから引き継げない、引き継げないからますますその人に業務が集中し、その結果、マニュアル作成やフォームの改定等の業務標準化に取り組めないという負のスパイラルに陥り、そこから抜けられないという悩みを漏らされていました。このような上場企業は、多いと思います。

⑤また、開示書類の作成は会社の様々な部署と連携を採りながら、作り上げていくものですから、会社全体の業務をある程度把握されている方、つまり比較的年次が上の方や、中途で入社された方でもそこそこのポジションの方が担当されるケースが多いです。その結果、その業務をチェックする人も限られ、毎年のようにローテーションで変わるということがやりにくいポジションとなり、それが結果的に業務属人化に繋がっていると考えられます。

3.『心理的側面』について

⑥開示業務は、決算業務同様、比較的専門性の高い業務領域になりますので、それを担当する方はどうしても職人的なマインドでミス無く完璧に書類を作成しようと努力されます。私も以前、事業会社で実際に開示書類を作成する立場を経験してきましたので気持ちが良くわかりますが、ミス無く書類を作成しようと思えば思うほど、「自分にしかできない」という義務感が生じ、人に任せられなくなります。

⑦また、人によっては、自分の業務を囲いたがる方もいらっしゃいます。その根底には、「他人に自分の業務を奪われたくない」という心理や焦燥感があるのだと思います。特に連結決算業務や難しい税効果の注記、開示業務などは、専門性が高いゆえに、それをできるというだけで会社に価値を認めて貰えますので、自分の仕事のテリトリーを明確にして、第三者に口出しされたくないといったマインドを持たれている方が多いと感じます。

このように様々な側面から、開示書類作成業務というのは、そもそも業務属人化を招きやすく、また、特定の人に業務が集中しやすい職種だということをご理解頂きたいと思います。

平成29年3月期に係る決算短信の様式の見直しについて

東京証券取引所は、「金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ」報告の提言に従い、決算短信・四半期決算短信の開示の自由度を高めるとともに、速報としての役割に特化するため、所要の見直しを行ないました。

東証ホームページ 参照

平成29年3月期から適用される改正点の主なポイントは以下のとおりです。 続きを読む →

決算・財務報告プロセスにおける内部統制⑥――不適切会計の事例に学ぶ内部統制の重要性(まとめ)

前回までのコラムで御紹介した不適切会計の事例からもわかる通り、売上の過大計上や、工事原価の過少見積などは、販売プロセスや購買プロセス、生産プロセスなどの各業務プロセスで起こる場合が多いです。しかし、業績に対する過度なプレッシャーなどが背景にありますので、単に関連部署の上長による承認といった内部統制だけでは機能しないことがあります。また、B社C社の事例のように経理部門において行なわれる決算整理仕訳のうち、例えば経過勘定に関するものや工事進行基準のように会計上の見積もりを伴う仕訳に対して、社長や経営者の指示で恣意的な操作が行われる場合もありますので、単に経理部長の承認だけでは内部統制として不十分な場合もあります。

しかし、A社の事例のように、仮に決算・財務報告プロセスにおける内部統制の整備を検討する上で、先方の検収が行なわれた日付が明確でない受領書だけをチェックするのではなく、実際に設置作業か完了した日付を証明するために作業報告書までチェックしていたら、事態が早期に発覚し、不適切会計が行なわれるのを防げたかもしれません。残高確認も、収益・費用の認識時点を取引先と確認するうえで重要な手続きですから、監査法人任せにするのではなく、重要な内部統制手続きの一貫として、期末に限らず定期的に行なっていたら、債権債務認識の不一致が早期に発見でき、自社内で行なわれている不適切な操作に早めに気付くことができたかもしれません。

ですから、下記の図にあります①に記載のとおり、決算時の統制手続き(例えば、残高確認や入金確認・年齢調べ、収益や費用の認識時期に関するカットオフテストの実行など)により、各業務プロセスの誤謬のみならず、場合によっては不正までも未然に発見できる可能性があるわけです。そして、②に記載のとおり、決算財務報告プロセス内で行なわれる決算整理仕訳や連結範囲の検討、関連当事者との取引把握は、虚偽記載の事例が非常に多い分野ですので、特に内部統制の整備に関して有効に機能するデザインとなっているか、慎重に検討する必要があります。

是非、決算・財務報告プロセスにおいて、経理部門の方々が果たすべき内部統制の役割の重要性をご理解頂き、財務諸表の虚偽記載や不適切会計が行なわれない体制、仕組みを十分に検討頂きたいと思います。

不適切会計事例に学ぶ内部統制の重要性

決算・財務報告プロセスにおける内部統制⑤――不適切会計の事例に学ぶ内部統制の重要性(C社)

このコラムでは、実際に起きた不適切会計の事例を紹介し、それぞれの事例での内部統制上の問題点を検証し、決算・財務報告プロセスで経理部門が果たすべき役割について考えてみたいと思います。

C社の事例

【不適切会計の事実】

トラベル事業を営む連結子会社において、システム移行時に管理不能となった顧客への未収入金(システム差額)のうち、その後一切回収されていない長期未収入金について貸倒引当金を計上せず、また、前期から繰り越された前払費用に計上されているもののうち費用計上すべきものを費用処理しない等により、恣意的に利益操作を行っていた。

【内部統制上の問題点】

勘定科目の適正な計上を行なうための正しい業務手順がそもそも示されておらず、また、適時適切な顧客管理システムへの入力等を担保する相互チェックや検証の仕組みが存在しないなど、予防的統制が存在しなかった。請求書と顧客管理システムとの照合すら行なわれていなかった。さらに、月次締後でも店舗及び商品部でデータ更新が可能な仕様であるなど、不適切な会計処理を防止する機能やチェックする機能が整備されていなかった。

決算・財務報告プロセスにおける内部統制構築のポイント

この会社の調査報告書などを読みますと、改めて、経理部門における勘定科目取扱要領等のマニュアルや業務手順書の重要性を再認識させられます。仮に、正しい業務手順書が定められ、かつ、内部統制の運用状況の評価手続きがきちんと行なわれていれば、前払費用のような経過勘定の費用処理が見逃されることはなかったと思いますし、請求書と顧客管理システムの照合といった基本的な手続きが行なわれて入れば、エラーが経営者や社外監査役、会計監査人にも報告されていたかもしれません。さらに、この事例では、月次締め後でもデータ更新が可能な仕様になっていたとのことですが、システム統制の評価がキチンとなされていれば、早期に改善され、このような不正を行なうこと事態を回避できたかもしれません。

このような売上計上時期や費用認識に関する恣意的な操作は、多くの場合、決算・財務報告プロセスにおける承認プロセスが有効に機能していれば防止又は発見できるものばかりです。日常業務が忙しい等の理由で、マニュアルの更新や業務手順書のアップデートが疎かになってしまっている会社は多いと思いますが、決算・財務報告プロセスにおける内部統制の重要性を考えると、決算業務の業務手順やルールを明確にしておくことは内部統制を構築する上で最優先すべき課題の1つです。

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失敗しない訂正報告書の作成実務⑤

訂正報告書を提出する場合、EDINET提出書類としての有価証券報告書(四半期報告書)の訂正報告書と、TDnet開示書類としての訂正決算短信(四半期決算短信)をそれぞれ提出する必要があることは前回のコラムで説明しました。このコラムでは、それぞれの訂正報告書のフォーマット、開示方法について解説します。

訂正報告書それぞれの訂正箇所の開示方法の仕方としては、大きく分けると以下の2つのパターンに分類できます。開示方法について

まずEDINET提出書類としての訂正有価証券報告書(訂正四半期報告書)を作成するにあたっては、①有価証券報告書の訂正報告書の訂正理由、②訂正事項、③訂正箇所について記載する必要があります。サンプル・ひな型は次の通りです。有価証券報告書の訂正報告書サンプル

このサンプルの3【訂正箇所】の記載方法のように、訂正箇所が書類全体に及ぶケースの場合には、「訂正前」・「訂正後」の開示に変えて、「訂正後のみ全文」の開示も認められています。過去の財務諸表等の修正が必要で財務諸表本表、主要な経営指標等の訂正が必要なケースでは、上記のサンプルのような記載方法を採用する方が実務上の作業負担軽減に繋がると思いますので、参考としてください。

次にTDnet開示書類としての訂正決算短信(訂正四半期決算短信)の作成についてですが、数値データに修正がある場合には、①訂正の内容、②訂正の理由を記載するとともに訂正後の数値データの提出も必要となります。以下は、数値データの訂正があるケースの東証の「決算短信・四半期決算短信 記載要領等(2015年1月)」のひな型の抜粋です(P.10より引用)。

訂正の内容の開示方法は、訂正箇所のみ「訂正前」・「訂正後」の順で開示する方法の他、全体に訂正箇所が及ぶ場合には、「訂正後全文」・「訂正前全文」開示を行っている例が多いようです。訂正後のみ全文記載で開示された事例はわずか(倉敷紡績様、イワキ株式会社様)にしかなく、基本的には順番の前後を問わず、訂正前と訂正後の双方の開示が必要とされますので、ご留意下さい。

このように、EDINET提出書類としての有価証券報告書の訂正報告書と、TDnet開示書類としての訂正決算短信の記載内容は類似しておりますが、特に訂正箇所が全体に及ぶ場合の記載方法につき、財務局と東証でわずかながら違いがあります。したがって、事前にフォーマットの確認を行っておくとともに、訂正箇所が多岐に及ぶ場合には、訂正箇所の範囲が決まった時点で開示方法についても財務局・東証に事前に確認を採ってから、訂正報告書の原稿作成を始めることをお勧めします。

失敗しない訂正報告書の作成実務④

過去の財務諸表等における誤謬が発見され、投資家保護のため訂正が必要と判断された場合には、訂正報告書を提出しなければならないものとされています(金融商品取引法24条の2、7条参照)。このコラムでは、過年度の開示書類について訂正報告書を提出する場合の財務局(EDINET)への提出書類及び取引所(TDnet)への開示書類等について解説します。

EDINET提出書類及びTDnet開示書類を整理すると、以下の通りとなります。

提出書類

EDINET提出書類としては、「有価証券報告書の訂正報告書」/「四半期報告書の訂正報告書」及びそれぞれの「確認書」をHTML形式にて作成・提出する必要があります。この他、InlineXBRL適用前で財務諸表に訂正がある場合には、財務諸表XBRLファイルも合わせて提出する必要があり、Inline XBRL適用後は、全文InlineXBRLファイル(訂正箇所を反映させた更新版)を合わせて提出する必要があります。なお、実務上は、次世代EDINET以前の決算期に係る訂正報告書を作成する場合、PRONEXUS WORKS等の開示書類作成システムの利用環境等に留意する必要があります。一世代前のシステムを利用しないと当該財務諸表XBRLファイルを作成できないからです。

また、訂正報告書の訂正理由にもよりますが、内部統制報告書の内容・評価にも影響があると判断される場合には、内部統制報告書の訂正報告書を提出する必要があります。役員や従業員等による不正が原因で財務諸表の虚偽記載が発覚し、訂正報告書を提出している事例では、内部統制報告書の訂正報告書も出しているケースが多いようです。

公告については、ご存知ない方も多いかもしれません。金融商品取引法第24条の2第2項に基づき、有価証券報告書の記載事項のうち重要なものについて訂正報告書を提出したときは、その旨を公告しなければならないものとされております。本公告は、EDINETのトップページから「公告閲覧」タブを選択して閲覧することができます。

 

次にTDnet開示書類についてですが、「決算短信」又は「四半期決算短信」を開示した後に、開示内容について、変更又は訂正すべき事情が生じた場合には、当該変更又は訂正の内容を開示することが必要となります。さらに、開示資料(PDFファイル)の記載内容と、同時に提出されたXBRLファイルの内容に不一致が判明した場合には、その内容の如何にかかわらず、直ちに変更又は訂正の開示を行う必要があります。

「決算短信」「四半期決算短信」の訂正にかかる開示書類の表題は、訂正又は追加の対象となった開示資料の表題の冒頭に、以下の要領で、訂正又は追加の内容が判別できる表示を行うこととされています。

訂正短信の開示方法

なお、複数期に渡り財務諸表の修正を伴う決算短信の訂正を行う場合、サマリー情報、財務諸表XBRLのファイルは、実務上、直近1年分程度の提出を求められるのが一般的です。

また、過年度の決算を訂正することとなった場合、適時開示が求められておりますが、当該リリースにおいて、①訂正の内容、②訂正の理由、③その他投資家が会社情報を適性に理解・判断するために必要な事項を記載するものとされております。過年度の決算を訂正する場合には、本訂正による各期の業績に与える影響額の概要等を開示することが求められますので忘れずにご準備下さい。

 

以上のように、財務諸表の修正を伴う訂正報告書を提出する場合、提出書類が多岐に渡り、限られた時間の中で多くの業務を行わなければなりません。作業スケジュールの明確化と適切な役割分担を行い、一時的な業務負荷の増大に耐えうるプロジェクトチーム体制を準備することが肝心です。