決算・財務報告プロセスにおける内部統制⑥――不適切会計の事例に学ぶ内部統制の重要性(まとめ)

前回までのコラムで御紹介した不適切会計の事例からもわかる通り、売上の過大計上や、工事原価の過少見積などは、販売プロセスや購買プロセス、生産プロセスなどの各業務プロセスで起こる場合が多いです。しかし、業績に対する過度なプレッシャーなどが背景にありますので、単に関連部署の上長による承認といった内部統制だけでは機能しないことがあります。また、B社C社の事例のように経理部門において行なわれる決算整理仕訳のうち、例えば経過勘定に関するものや工事進行基準のように会計上の見積もりを伴う仕訳に対して、社長や経営者の指示で恣意的な操作が行われる場合もありますので、単に経理部長の承認だけでは内部統制として不十分な場合もあります。

しかし、A社の事例のように、仮に決算・財務報告プロセスにおける内部統制の整備を検討する上で、先方の検収が行なわれた日付が明確でない受領書だけをチェックするのではなく、実際に設置作業か完了した日付を証明するために作業報告書までチェックしていたら、事態が早期に発覚し、不適切会計が行なわれるのを防げたかもしれません。残高確認も、収益・費用の認識時点を取引先と確認するうえで重要な手続きですから、監査法人任せにするのではなく、重要な内部統制手続きの一貫として、期末に限らず定期的に行なっていたら、債権債務認識の不一致が早期に発見でき、自社内で行なわれている不適切な操作に早めに気付くことができたかもしれません。

ですから、下記の図にあります①に記載のとおり、決算時の統制手続き(例えば、残高確認や入金確認・年齢調べ、収益や費用の認識時期に関するカットオフテストの実行など)により、各業務プロセスの誤謬のみならず、場合によっては不正までも未然に発見できる可能性があるわけです。そして、②に記載のとおり、決算財務報告プロセス内で行なわれる決算整理仕訳や連結範囲の検討、関連当事者との取引把握は、虚偽記載の事例が非常に多い分野ですので、特に内部統制の整備に関して有効に機能するデザインとなっているか、慎重に検討する必要があります。

是非、決算・財務報告プロセスにおいて、経理部門の方々が果たすべき内部統制の役割の重要性をご理解頂き、財務諸表の虚偽記載や不適切会計が行なわれない体制、仕組みを十分に検討頂きたいと思います。

不適切会計事例に学ぶ内部統制の重要性

決算・財務報告プロセスにおける内部統制⑤――不適切会計の事例に学ぶ内部統制の重要性(C社)

このコラムでは、実際に起きた不適切会計の事例を紹介し、それぞれの事例での内部統制上の問題点を検証し、決算・財務報告プロセスで経理部門が果たすべき役割について考えてみたいと思います。

C社の事例

【不適切会計の事実】

トラベル事業を営む連結子会社において、システム移行時に管理不能となった顧客への未収入金(システム差額)のうち、その後一切回収されていない長期未収入金について貸倒引当金を計上せず、また、前期から繰り越された前払費用に計上されているもののうち費用計上すべきものを費用処理しない等により、恣意的に利益操作を行っていた。

【内部統制上の問題点】

勘定科目の適正な計上を行なうための正しい業務手順がそもそも示されておらず、また、適時適切な顧客管理システムへの入力等を担保する相互チェックや検証の仕組みが存在しないなど、予防的統制が存在しなかった。請求書と顧客管理システムとの照合すら行なわれていなかった。さらに、月次締後でも店舗及び商品部でデータ更新が可能な仕様であるなど、不適切な会計処理を防止する機能やチェックする機能が整備されていなかった。

決算・財務報告プロセスにおける内部統制構築のポイント

この会社の調査報告書などを読みますと、改めて、経理部門における勘定科目取扱要領等のマニュアルや業務手順書の重要性を再認識させられます。仮に、正しい業務手順書が定められ、かつ、内部統制の運用状況の評価手続きがきちんと行なわれていれば、前払費用のような経過勘定の費用処理が見逃されることはなかったと思いますし、請求書と顧客管理システムの照合といった基本的な手続きが行なわれて入れば、エラーが経営者や社外監査役、会計監査人にも報告されていたかもしれません。さらに、この事例では、月次締め後でもデータ更新が可能な仕様になっていたとのことですが、システム統制の評価がキチンとなされていれば、早期に改善され、このような不正を行なうこと事態を回避できたかもしれません。

このような売上計上時期や費用認識に関する恣意的な操作は、多くの場合、決算・財務報告プロセスにおける承認プロセスが有効に機能していれば防止又は発見できるものばかりです。日常業務が忙しい等の理由で、マニュアルの更新や業務手順書のアップデートが疎かになってしまっている会社は多いと思いますが、決算・財務報告プロセスにおける内部統制の重要性を考えると、決算業務の業務手順やルールを明確にしておくことは内部統制を構築する上で最優先すべき課題の1つです。

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東芝 PwCあらた監査法人の起用を発表

会計不祥事を受けて会計監査人の交代を検討していた東芝は、1月27日、現任の新日本監査法人の後任にPwCあらた監査法人を起用すると発表しました。

今後、2016年6月開催予定の定時株主総会に提出する会計監査人の選任に関する議案の内容を決定し、定時株主総会に上程される予定だそうです。

東芝プレスリリース

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不適切会計とガバナンス

先日、東芝の会計不祥事を巡り、証券取引等監視委員会は行政処分として、月内(2015年11月中)にも同社に課徴金を科すよう金融庁に勧告するとの報道がなされました。課徴金は70億円を超え過去最高額となる見通しです。今回は、このニュースに関連して、不適切会計に関しての私見を述べたいと思います。

東芝に限らず、不適切な会計処理をしていたことが第三者委員会の調査等で発覚し、決算を遡及して修正している上場企業は、近年、増えております。これら訂正報告書を提出している上場企業の内部統制報告書を閲覧すると、ほとんどの会社において、その対象期において内部統制上の不備はなかったとの報告書が提出されていました。にもかかわらず、不適切会計に起因する財務諸表の虚偽記載が行われるケースが後を絶ちません。

いったい、何故、東芝のように革新的なコーポレートガバナンス体制を採っているとされている企業でさえ、このような不祥事が発生してしまうのでしょうか?

2015年7月20日に公表されました同社の第三者委員会の調査報告書によれば、工事進行基準案件に係る会計処理等において不適切な会計処理が行われていることが判明したとのことです。その背景として、事業戦略上の必要性から入札に勝つために、具体的な裏付けのないコスト削減策が含まれた工事原価総額が使用され、あるいは、受注後の仕様変更等により追加工事が発生したにもかかわらず、正式な注文書を発行せず、減額交渉を行っていること等を理由に見積工事原価総額に含めないなどして、工事原価総額を過少に見積られていたと報告されました。また、契約受注時点から赤字が見込まれていた案件や工事期間中に赤字になる可能性が高まった案件についても、トップダウンの指示や予算目標必達のプレッシャー等を背景に、引当金の計上を回避し、損失計上の先送りが行われたようです。

他の不適切会計の事例を調べても、東芝のケースのように、形式的には、各事業部から独立した管理部門や内部監査部門など牽制機能を発揮するように組織は整備されているものの、実質的には、機能不全に陥っているケースは多いようです。すなわち、各事業部の責任者が承認しなければ引当金の計上や工事原価総額の修正を行うことはできない組織風土になっていて、経営者による不正リスクに対する内部統制が機能していないということです。東芝の会計不祥事の発生経緯も、まさにこの機能不全が原因であったと調査報告書には記載されています。

そして、その根幹には、日本企業特有の「馴れ合い」によるガバナンスが行われているという実態があると私は思います。経営陣が短期的な業績にこだわる背景には、社内の出世・派閥争いや財界での地位への執着等があり、周囲の人間は皆それらの事情を知っています。ですから、暗黙の了解のもと、無理な決算が組まれ、それが是正されずに決算発表されてしまうという構図が生まれるのです。

企業業績の実態が歪められて株主・投資家に伝えられることのないよう、受注損失引当金や工事進行基準における工事原価総額などを信頼性を持って見積れる社内体制にあるかを今一度、再検証するとともに、厳格なルール作りをすることが重要です。そして、「馴れ合い」の組織風土を変え、経営者自らが行う不正を牽制する「仕組み」を構築することこそが、企業の持続的な成長につながり、結果として従業員のモチベーション維持、企業価値の向上につながるのではないでしょうか。