決算・財務報告プロセスにおける内部統制⑤――不適切会計の事例に学ぶ内部統制の重要性(C社)

このコラムでは、実際に起きた不適切会計の事例を紹介し、それぞれの事例での内部統制上の問題点を検証し、決算・財務報告プロセスで経理部門が果たすべき役割について考えてみたいと思います。

C社の事例

【不適切会計の事実】

トラベル事業を営む連結子会社において、システム移行時に管理不能となった顧客への未収入金(システム差額)のうち、その後一切回収されていない長期未収入金について貸倒引当金を計上せず、また、前期から繰り越された前払費用に計上されているもののうち費用計上すべきものを費用処理しない等により、恣意的に利益操作を行っていた。

【内部統制上の問題点】

勘定科目の適正な計上を行なうための正しい業務手順がそもそも示されておらず、また、適時適切な顧客管理システムへの入力等を担保する相互チェックや検証の仕組みが存在しないなど、予防的統制が存在しなかった。請求書と顧客管理システムとの照合すら行なわれていなかった。さらに、月次締後でも店舗及び商品部でデータ更新が可能な仕様であるなど、不適切な会計処理を防止する機能やチェックする機能が整備されていなかった。

決算・財務報告プロセスにおける内部統制構築のポイント

この会社の調査報告書などを読みますと、改めて、経理部門における勘定科目取扱要領等のマニュアルや業務手順書の重要性を再認識させられます。仮に、正しい業務手順書が定められ、かつ、内部統制の運用状況の評価手続きがきちんと行なわれていれば、前払費用のような経過勘定の費用処理が見逃されることはなかったと思いますし、請求書と顧客管理システムの照合といった基本的な手続きが行なわれて入れば、エラーが経営者や社外監査役、会計監査人にも報告されていたかもしれません。さらに、この事例では、月次締め後でもデータ更新が可能な仕様になっていたとのことですが、システム統制の評価がキチンとなされていれば、早期に改善され、このような不正を行なうこと事態を回避できたかもしれません。

このような売上計上時期や費用認識に関する恣意的な操作は、多くの場合、決算・財務報告プロセスにおける承認プロセスが有効に機能していれば防止又は発見できるものばかりです。日常業務が忙しい等の理由で、マニュアルの更新や業務手順書のアップデートが疎かになってしまっている会社は多いと思いますが、決算・財務報告プロセスにおける内部統制の重要性を考えると、決算業務の業務手順やルールを明確にしておくことは内部統制を構築する上で最優先すべき課題の1つです。

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決算・財務報告プロセスにおける内部統制④――不適切会計の事例に学ぶ内部統制の重要性(B社)

このコラムでは、実際に起きた不適切会計の事例を紹介し、それぞれの事例での内部統制上の問題点を検証し、決算・財務報告プロセスで経理部門が果たすべき役割について考えてみたいと思います。

B社の事例

【収益認識基準】

システム装置の販売に係る収益の認識について、工事進行基準を採用し、「工事原価総額」が「工事収益総額」を超過する可能性が高く、かつ、その金額を合理的に見積ることができる場合には工事損失引当金を計上している。

【不適切会計の事実】

過度な業績達成に対するプレッシャー等から、見積工事原価総額を過少に見積るなどして、売上の過大計上、工事損失引当金の過少計上を行なっていた。

【内部統制上の問題点】

設定されていたコントロールが、「上長が承認する」といったものしかなく、上長も含めた事業部門全体による不正に対応するものとなっていなかった。また、業務記述書を作成した当初は想定していなかった取引事象等に関して、これらのリスクを評価したうえで業務記述書やコントロール設定の見直しが十分でなかった。

決算・財務報告プロセスにおける内部統制構築のポイント

組織ぐるみの不正で、トップからの圧力がある場合には内部統制を機能させることは難しいと良く言われますが、それでも、工事原価総額の見積もりに対して関係部署以外の方、あるいは内部監査担当の方がモニタリングする統制手続きが用意されていたら、少なくとも事業部長単独の意向だけで工事原価総額の見積もりを通すのは難しいという牽制機能が働いていたかもしれません。また、トップの意向により行なわれる不正に対しては、社外役員や外部の専門家等も交え、決算承認プロセスの際に議論されるべきだったと思います。

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決算・財務報告プロセスにおける内部統制③――不適切会計の事例に学ぶ内部統制の重要性(A社)

このコラムでは、実際に起きた不適切会計の事例を紹介し、それぞれの事例での内部統制上の問題点を検証し、決算・財務報告プロセスで経理部門が果たすべき役割について考えてみたいと思います。

A社の事例

【収益認識基準】

従来から監査法人に機械装置の売上取引に係る検収の事実が不明確であるとの指摘を受けていたことから、機械装置の売上取引に際しては、顧客との間で「商品売買契約書」及び「検収確認書兼受領書」を取り交わすこととし、当該受領書に基づき検収基準で収益を認識していた。

【不適切会計の事実】

顧客は検収時点で当該受領書に押印等を行なっていたのではなく、当社から依頼をして押印等をしてもらっていた。すなわち、本来、検収を表すべき証憑が適切に運用されず形骸化し、出荷基準での売上計上が続いていた。

【内部統制上の問題点】

機械装置をエンドユーザーの施設内に設置する際に、作業報告書を作成していた。ところが、この書類は会計記録に係る証憑書類として位置づけられていなかったことから、設置完了前の時点で売上計上されてしまっていた。

決算・財務報告プロセスにおける内部統制構築のポイント

第三者委員会の報告書でも指摘があるとおり、設置完了日が明らかとなる証憑があったにも関わらず、それを会計記録に関する証憑書類として扱っていなかったため、受領証との照合などが行なわれなかった点、すなわち売上計上の承認を行なうという統制手続きのデザイン(内部統制の整備状況)自体に問題があったといえます。

正しい証憑を用いて照合手続きを行い、売上の計上時期の妥当性を検証するプロセスがあれば、そもそもこうした偽装は起こらなかったかもしれません。また、おそらくこの会社を担当していた監査法人も重要な取引先に対する残高確認は行なっていたと思いますが、経理部門の方でもこの顧客に対して期末の売掛金に対する残高確認を行い、本来ズレる筈のない、この機械装置に係る債務認識について差異が発生していることが判明し、かつ、その原因追及までできていれば、不正の発生を食い止めることができたかもしれません。また、売掛金の年齢調べを行なう際、この顧客からの入金サイトが通常のサイクルより長いといった事態が見つかっていたかもしれません。

このように、経理部門、管理部門が主体となって行なうことができる内部統制の手続きは様々なものがあり、これらの手続きが有効に機能していれば、売上責任を負っている販売部門や事業部の不正を発覚できる可能性もあったと思います。

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決算・財務報告プロセスにおける内部統制②――留意すべき統制手続きの2つのポイント

ポイント1.業務の可視化

前回のコラムでもお話したとおり、決算・開示書類作成業務は、ある種の専門知識を必要とする特殊な業務であることから、誰でも簡単に業務を引き継ぐことができるポジションではなく、ジョブローテーションに馴染まない職種と言えます。ですから、ある程度の実務経験を積んだ特定のキーマンに業務が集中する傾向があります。

このため、この実務経験者は多忙な業務の合間に最近の頻繁な会計基準や規則の改正をキャッチアップするのが精一杯で、業務マニュアルの作成や改訂まで手が回らないという会社が多いです。また、このキーマンにしか解読不能なエクセルシートが作られる・・・といった事態も生まれてしまいます。

このような事態を避けるためには、本人以外の第三者がチェックし易い業務フローへと改善すること、および、キーマンの突然の休職や退職に備える体制づくりを行なうことがポイントです。

具体的には、以下の対策を行なうことが効果的です。

・決算整理仕訳や開示書類作成業務の業務手順をドキュメント化すること(マニュアル整備)

・本人しか解読できないスプレッドシートの排除(フォーマットの標準化)

・開示根拠資料を整理してファイリングするなど、開示事項がどのシートに基づいて作成されたかを紐付けすること(トレーサビリティの確保・向上)

ポイント2.チェック体制の充実

上記のとおり、決算・開示書類作成業務を担当する者が限られ、マンパワーや知識・スキル面でのリソース不足から、どうしても第三者によるレビューを実施できていない会社が多いです。即戦力を中途採用で補おうとしても、スキル面でのミスマッチ等の採用リスクを抱えることになります。

開示事項等に誤りがあった場合に、適時・適切に修正できるチェック体制とするためには、「チェックリスト」の導入が効果的です。適切なチェックリストをうまく活用することで知識不足等を補えるのみならず、経験の浅い者でもチェックリストを潰すことで業務理解が深まり、人材育成効果も得られます。また、このチェックリストは、毎期、規則等の改正がある度に見直しを図ることも重要となります。

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決算・財務報告プロセスにおける内部統制①――決算・財務報告プロセスにおける内部統制の重要性と課題

決算・財務報告プロセスにおける内部統制の重要性

2008年より始まった「内部統制報告書」制度ですが、未だ内部統制の整備・運用状況が十分でない上場企業・上場準備企業が多いです。

J-SOX実務上は、どうしても業務プロセスのドキュメント作り(販売や購買などの業務記述書やフローチャート等の作成業務)やその有効性評価手続きの業務に担当者が追われてしまいがちです。しかし、肝心なのは、これらの業務プロセスではありません。「会社の属する企業集団および当該会社に係る財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するために必要な体制」を構築・評価するというJ-SOXの本来の趣旨から考えると、「各業務プロセスにおける内部統制」の有効性よりも、「決算・財務報告プロセスにおける内部統制」の有効性を検証することこそが、虚偽記載や財務報告上の誤りを是正する上で最も重要だと言われています。

なぜなら、販売や購買、人件費計上といった上流工程の内部統制が如何に有効に機能していたとしても、川下の工程である決算・財務報告プロセスの内部統制に不備があれば、財務諸表作成や開示書類作成の過程で、虚偽記載がなされてしまう可能性が大いにあるからです。一方、上流工程の内部統制に不備があっても、入出金管理による消し込みや残高確認等、経理部門で行なわれるチェックを通じて、虚偽記載の原因となる事象を発見でき、回避することも可能だからです。

また、最近の不適切開示の事例を見ても、決算・財務報告プロセスにおける内部統制が有効に機能していないことが要因で不適切開示が発生し、後日、内部統制報告書の訂正により「開示すべき重要な不備」を開示している事例が頻発しています。このことからも、決算・財務報告プロセスにおける内部統制が、J-SOXの趣旨に照らし、いかに重要であるかが伺えます。

内部統制上の課題

上場企業における開示実務担当者は、IFRS(国際財務報告基準)の本格適用をにらんだ毎年の法令改正等をキャッチアップしながら、期限内に書類を提出しなければならず、その負担は年々増加しております。また、決算・開示に必要な専門知識が年々高度化し、当該専門知識を有する人材が不足している等の背景から、決算・開示に係る業務が特定のキーマンに集中し、長年の実務の積み重ねで作り上げた独特なエクセルシートのフォーマットが生まれるなど、担当業務が属人的になる傾向があります。

その結果、以下のような課題を抱える上場企業・上場準備企業が依然として多く、当社では、これらに関する内部統制構築支援の相談を頂くケースもあります。

  • 決算や開示書類作成に必要な業務マニュアル等が存在しない
  • 決算業務に係る業務記述書が暫く更新されていない
  • 決算整理仕訳のチェックや注記事項、開示書類のチェック体制が不十分

そこで、本コラムでは、上場会社や上場準備会社のCFO、経理・開示実務担当者の方々を対象に、決算・財務報告プロセスにおける内部統制やチェックの仕組みを構築する上で留意すべきポイントや、属人化を排除し業務の可視化を推進するためのノウハウ等をご紹介して参ります。

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失敗しない訂正報告書の作成実務⑤

訂正報告書を提出する場合、EDINET提出書類としての有価証券報告書(四半期報告書)の訂正報告書と、TDnet開示書類としての訂正決算短信(四半期決算短信)をそれぞれ提出する必要があることは前回のコラムで説明しました。このコラムでは、それぞれの訂正報告書のフォーマット、開示方法について解説します。

訂正報告書それぞれの訂正箇所の開示方法の仕方としては、大きく分けると以下の2つのパターンに分類できます。開示方法について

まずEDINET提出書類としての訂正有価証券報告書(訂正四半期報告書)を作成するにあたっては、①有価証券報告書の訂正報告書の訂正理由、②訂正事項、③訂正箇所について記載する必要があります。サンプル・ひな型は次の通りです。有価証券報告書の訂正報告書サンプル

このサンプルの3【訂正箇所】の記載方法のように、訂正箇所が書類全体に及ぶケースの場合には、「訂正前」・「訂正後」の開示に変えて、「訂正後のみ全文」の開示も認められています。過去の財務諸表等の修正が必要で財務諸表本表、主要な経営指標等の訂正が必要なケースでは、上記のサンプルのような記載方法を採用する方が実務上の作業負担軽減に繋がると思いますので、参考としてください。

次にTDnet開示書類としての訂正決算短信(訂正四半期決算短信)の作成についてですが、数値データに修正がある場合には、①訂正の内容、②訂正の理由を記載するとともに訂正後の数値データの提出も必要となります。以下は、数値データの訂正があるケースの東証の「決算短信・四半期決算短信 記載要領等(2015年1月)」のひな型の抜粋です(P.10より引用)。

訂正の内容の開示方法は、訂正箇所のみ「訂正前」・「訂正後」の順で開示する方法の他、全体に訂正箇所が及ぶ場合には、「訂正後全文」・「訂正前全文」開示を行っている例が多いようです。訂正後のみ全文記載で開示された事例はわずか(倉敷紡績様、イワキ株式会社様)にしかなく、基本的には順番の前後を問わず、訂正前と訂正後の双方の開示が必要とされますので、ご留意下さい。

このように、EDINET提出書類としての有価証券報告書の訂正報告書と、TDnet開示書類としての訂正決算短信の記載内容は類似しておりますが、特に訂正箇所が全体に及ぶ場合の記載方法につき、財務局と東証でわずかながら違いがあります。したがって、事前にフォーマットの確認を行っておくとともに、訂正箇所が多岐に及ぶ場合には、訂正箇所の範囲が決まった時点で開示方法についても財務局・東証に事前に確認を採ってから、訂正報告書の原稿作成を始めることをお勧めします。

失敗しない訂正報告書の作成実務④

過去の財務諸表等における誤謬が発見され、投資家保護のため訂正が必要と判断された場合には、訂正報告書を提出しなければならないものとされています(金融商品取引法24条の2、7条参照)。このコラムでは、過年度の開示書類について訂正報告書を提出する場合の財務局(EDINET)への提出書類及び取引所(TDnet)への開示書類等について解説します。

EDINET提出書類及びTDnet開示書類を整理すると、以下の通りとなります。

提出書類

EDINET提出書類としては、「有価証券報告書の訂正報告書」/「四半期報告書の訂正報告書」及びそれぞれの「確認書」をHTML形式にて作成・提出する必要があります。この他、InlineXBRL適用前で財務諸表に訂正がある場合には、財務諸表XBRLファイルも合わせて提出する必要があり、Inline XBRL適用後は、全文InlineXBRLファイル(訂正箇所を反映させた更新版)を合わせて提出する必要があります。なお、実務上は、次世代EDINET以前の決算期に係る訂正報告書を作成する場合、PRONEXUS WORKS等の開示書類作成システムの利用環境等に留意する必要があります。一世代前のシステムを利用しないと当該財務諸表XBRLファイルを作成できないからです。

また、訂正報告書の訂正理由にもよりますが、内部統制報告書の内容・評価にも影響があると判断される場合には、内部統制報告書の訂正報告書を提出する必要があります。役員や従業員等による不正が原因で財務諸表の虚偽記載が発覚し、訂正報告書を提出している事例では、内部統制報告書の訂正報告書も出しているケースが多いようです。

公告については、ご存知ない方も多いかもしれません。金融商品取引法第24条の2第2項に基づき、有価証券報告書の記載事項のうち重要なものについて訂正報告書を提出したときは、その旨を公告しなければならないものとされております。本公告は、EDINETのトップページから「公告閲覧」タブを選択して閲覧することができます。

 

次にTDnet開示書類についてですが、「決算短信」又は「四半期決算短信」を開示した後に、開示内容について、変更又は訂正すべき事情が生じた場合には、当該変更又は訂正の内容を開示することが必要となります。さらに、開示資料(PDFファイル)の記載内容と、同時に提出されたXBRLファイルの内容に不一致が判明した場合には、その内容の如何にかかわらず、直ちに変更又は訂正の開示を行う必要があります。

「決算短信」「四半期決算短信」の訂正にかかる開示書類の表題は、訂正又は追加の対象となった開示資料の表題の冒頭に、以下の要領で、訂正又は追加の内容が判別できる表示を行うこととされています。

訂正短信の開示方法

なお、複数期に渡り財務諸表の修正を伴う決算短信の訂正を行う場合、サマリー情報、財務諸表XBRLのファイルは、実務上、直近1年分程度の提出を求められるのが一般的です。

また、過年度の決算を訂正することとなった場合、適時開示が求められておりますが、当該リリースにおいて、①訂正の内容、②訂正の理由、③その他投資家が会社情報を適性に理解・判断するために必要な事項を記載するものとされております。過年度の決算を訂正する場合には、本訂正による各期の業績に与える影響額の概要等を開示することが求められますので忘れずにご準備下さい。

 

以上のように、財務諸表の修正を伴う訂正報告書を提出する場合、提出書類が多岐に渡り、限られた時間の中で多くの業務を行わなければなりません。作業スケジュールの明確化と適切な役割分担を行い、一時的な業務負荷の増大に耐えうるプロジェクトチーム体制を準備することが肝心です。

失敗しない訂正報告書の作成実務③

過去の財務諸表における誤謬が発見された場合、従来の日本の会計基準では、過去の誤謬を前期損益修正項目として当期の特別損益で修正されていましたが、過年度遡及会計基準においては、次の方法により「修正再表示」を行うこととなりました。

過去の誤謬に関する取扱い(「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」第21項)
21. 過去の財務諸表における誤謬が発見された場合には、次の方法により修正再表示する。
(1) 表示期間より前の期間に関する修正再表示による累積的影響額は、表示する財務諸表のうち、最も古い期間の期首の資産、負債及び純資産の額に反映する。
(2) 表示する過去の各期間の財務諸表には、当該各期間の影響額を反映する。

ここで、過去の誤謬の訂正と訂正報告書との関係について整理しておきます。
過去の誤謬を修正再表示するかどうかの判断にあたっては、その項目が財務諸表利用者の意思決定への影響に照らした重要性が考慮されます。

重要性(「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」第35項)
35. 本会計基準のすべての項目について、財務諸表利用者の意思決定への影響に照らした重要性が考慮される。
重要性の判断は、財務諸表に及ぼす金額的な面質的な面の双方を考慮する必要がある。金額的重要性には、損益への影響額又は累積的影響額が重要であるかどうかにより判断する考え方や、損益の趨勢に重要な影響を与えているかどうかにより判断する考え方のほか、財務諸表項目への影響が重要であるかどうかにより判断する考え方などがある。 ただし、具体的な判断基準は、企業の個々の状況によって異なり得ると考えられる。また、 質的重要性は、企業の経営環境、財務諸表項目の性質、又は誤謬が生じた原因などにより判断することが考えられる。

一方で、重要な事項の変更その他公益又は投資家保護のため訂正の必要があると認めた場合には、訂正報告書を提出しなければならないとされています(金融商品取引法24条の2、7条参照)。
一般的には過去の誤謬を比較情報として示される前期数値を修正再表示することにより解消することはできないと考えられることから、金融商品取引法に基づく開示においては、修正再表示に先立ち、訂正報告書が提出されることになると考えられます。
過去の誤謬の重要性と修正再表示、訂正報告書の提出の関係を図に示すと以下の通りとなります。

過去の誤謬の重要性

限られた短い期間で複数期に渡り訂正報告書を作成する場合、想像以上に多くの実務負担が発生するものです。ですから、過年度財務諸表の遡及修正を行う場合、実務上は、どの期間まで訂正報告書を作成しなければならないかについて、早い段階で判断を行い、方針を決定することが非常に重要となります。

また、財務局への事前確認は必要かと思いますが、前期の比較情報としての財務諸表を修正した場合に、必ずしも前期分の訂正報告書を作成しなければならないというわけではなく、前期の財務諸表数値を修正するのみで訂正報告書の提出は行わないというケースもあります。あくまで投資家保護の観点からどの範囲まで訂正報告書の開示が必要かを提出会社が判断することとなるのです。
一方、重要性の判断に基づいて、過去の財務諸表を修正再表示しない場合は、損益計算書上、その性質により営業損益又は営業外損益として認識するものとされています(「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」第65項参照)。

最後に、会社法計算書類との関係についても解説しておきます。
会計基準上、過去の誤謬による修正再表示を行ったからといって、確定済みの過年度の計算書類が直ちに修正されるわけではありません。
過去の誤謬に重要性があり、過年度の会社法計算書類も修正を行う必要があれば、監査及び株主総会等の承認等の確定手続を全て行った上で、過年度の計算書類の修正を確定する必要があります。この場合、過年度の分配可能額にも影響が生じることになります。このように過去の確定決算数値を修正するケースは、実務上は極めて稀です。
一方、過去の誤謬が会社法上重要ではない場合には、確定済みの過年度の計算書類の修正は行わず、当期の計算書類は、当期の期首残高として、前期末の期末残高に誤謬の修正の累積的影響額を加えたものを用いて作成されることになります。実務上は、このケースが一般的です。

このように、過年度の財務諸表の誤謬が発見された場合、遡及修正をどこまで行うか、そして訂正報告書をどの範囲まで提出するかにつき、早期に判断し、当該誤謬に関連する注記情報等への影響を調べることが必要となります。過年度財務諸表の遡及修正を伴う訂正報告書の作成実務においては、このように過去の誤謬の重要性を関係者で協議のうえ判断し、訂正報告書の対象期、訂正範囲を早期に決定できるような体制を構築し、関係者との交通整理や明確な指示出しを行うこと等が肝心です。

失敗しない訂正報告書の作成実務②

株式会社東芝の2014年度の決算日は、2015年3月31日。ですが、第三者委員会による不適切な会計処理等の指摘を受け、決算数値の確定をすることができず、2度に渡り関東財務局長から提出期限延長の承認を受け、2015年9月7日にようやく有価証券報告書が提出されました。これは、法律で決まっている本来の提出期限を大幅に超えてしまっています。

今回は、この有価証券報告書の提出期限と、延長申請のルールについて解説します。

有価証券報告書の提出期限は、金融商品取引法第24条第1項に記載があります。

”第二十四条  有価証券の発行者である会社は、・・中略・・内閣府令で定めるところにより、事業年度ごとに、当該会社の商号、当該会社の属する企業集団及び当該会社の経理の状況その他事業の内容に関する重要な事項その他の公益又は投資者保護のため必要かつ適当なものとして内閣府令で定める事項を記載した報告書(以下「有価証券報告書」という。)を、内国会社にあつては当該事業年度経過後三月以内(やむを得ない理由により当該期間内に提出できないと認められる場合には、内閣府令で定めるところにより、あらかじめ内閣総理大臣の承認を受けた期間内)・・中略・・に、内閣総理大臣に提出しなければならない。・・後略・・”

このように、有価証券報告書は、決算日後、3か月以内に提出しなければならないのが本来の提出期限です。しかし、「やむを得ない理由により当該期間内に提出できないと認められる場合」には、期間の延長を申請して承認を受けることになっています。

「やむを得ない理由」は、企業内容等開示ガイドライン24-13(1)で例示されています。

① 電力の供給が断たれた場合その他の理由により、当該発行者の使用に係る電子計算機を稼動させることができないことによる債務未確定等を理由として、提出期限までに財務諸表又は連結財務諸表の作成が完了せず、又は監査報告書を受領できない場合

② 民事再生法に基づく再生手続開始の申立てによる債務未確定等を理由として、提出期限までに財務諸表又は連結財務諸表の作成が完了せず、又は監査報告書を受領できない場合

③ 過去に提出した有価証券報告書等のうちに重要な事項について虚偽の記載が発見され、当事業年度若しくは当連結会計年度の期首残高等を確定するために必要な過年度の財務諸表若しくは連結財務諸表の訂正が提出期限までに完了せず、又は監査報告書を受領できない場合であって、発行者がその旨を公表している場合

④ 監査法人等による監査により当該発行者の財務諸表又は連結財務諸表に重要な虚偽の表示が生じる可能性のある誤謬又は不正による重要な虚偽の表示の疑義が識別されるなど、当該監査法人等による追加的な監査手続が必要なため、提出期限までに監査報告書を受領できない場合であって、発行者がその旨を公表している場合

⑤ 法第24条第1項各号に掲げる有価証券の発行者が外国の者である場合であって、当該者の本国の計算等に関する法令又は慣行行等により提出期限までに有価証券報告書を提出することができない場合

つまり、提出期限の延長が認められるのは、過去に提出した有価証券報告書等のうちに重要な事項について虚偽の記載が発見され、財務諸表若しくは連結財務諸表の修正が提出期限までに完了できない場合、又は監査法人等による追加的な監査手続きが必要なため、提出期限までに監査報告書を受領できない場合等に限られています。これ以外のケースでは、延長の申請があっても承認されず、期限を守れない場合には、罰金や上場廃止(1ヶ月を超えて遅れる場合等)などのペナルティが科される場合があります。

期間の延長がどのくらい認められるかについては、明確な基準は設けられていませんが、東芝のように2ヶ月以上に渡って延長が認められるケースは稀で、通常、1ヶ月程度、延長が認められているケースが多いです。

また、有価証券報告書の提出期限延長の承認の手続きは、開示府令第15条の2第1項に記載されており、具体的には以下の記載が必要となります。

(1)  当該有価証券報告書の提出に関して当該承認を受けようとする期間

(2)  当該有価証券報告書に係る事業年度終了の日

(3)  当該有価証券報告書の提出に関して当該承認を必要とする理由

(4)  延長申請による承認を受けた場合及び(3)に規定する理由について消滅又は変更があつた場合に直ちにその旨を多数の者が知り得る状態に置くための方法

さらに、申請書類には以下の書類を添付しなければならないものとされています(開示府令第15条の2第2項)。

①定款又はこれに準ずるもの

②前記(3)に規定する理由を証する書面

これらの書類提出の準備、財務局や東京証券取引所への確認・状況報告、TDnet上での適時開示、監査法人との調整等々、提出書類の期限延長の手続きを行うに当たっては、やらなければならないことが沢山あります。万が一の事態に備え、今回ご紹介した開示ルール等をチェックしておくことをお勧めします。

失敗しない訂正報告書の作成実務①

当社では、昨年ぐらいから、訂正報告書の作成について実務の相談を受けることが多くなり、訂正報告書の作成支援を請け負うケースも増えてまいりました。その背景を調べてみたところ、不適切開示の件数がここ数年、増加傾向にあることがわかりました。

東京証券取引所では、適時適切な開示に対する上場会社の意識向上を図る観点から、2003年5月より毎月、不適切な開示に対する注意件数について公表しています。2015年度(2015年4月~2016年3月)の注意件数は、調査開始以来、過去最多となる309件を記録しました(東京証券取引所調べ、但し現物市場統合前の大阪証券取引所における不適正な開示については含まず)。

不適切件数

日本取引所グループ公表資料を基に当社で集計、表作成

同様に、東京商工リサーチの調べによれば、2015年度に「不適切な会計・経理」を開示した上場企業は58社で、2007年4月の調査開始から年度ベースで最多を記録したそうです。

東京商工リサーチ調べ

調査結果によると、具体的な内容では、「誤り」など単純なミス以外に、「着服」、「業績や営業ノルマ達成を動機とする架空売上」、「循環取引」など、コンプライアンス意識の欠落や業績低迷を糊塗した要因が多かったようです。

訂正報告書の作成実務に関しては、これまで経験したことのある実務担当者は極めて稀です。加えて、訂正報告書の開示書類作成に関して体系的に実務手順を解説している文献がほとんど存在せず、実務研修等のセミナーも多くありません。ですから、いざ、連結財務諸表等の遡及修正をして訂正報告書を作成しなければならない事態が生じると、多くの上場会社では、これまで経験したことがない実務に困惑し、焦燥に駆られ、不眠不休の対応を迫られる・・・といった状況に陥ります。

そこで、本ブログを通じて、上場会社のCFO、経理・開示実務担当者の方々を対象に、訂正報告書を作成する上で参考になるであろう話をお伝えしてまいります。